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自分の英語の会話を、書き起こす

文字起こしは、人によって好き嫌いの分かれる作業。私は好きなほうです。量や音質にもよりますが、何時間でもわりと淡々とできちゃいます。たぶん超細かい研究用の文字起こしで鍛えられて、”面倒くさいメーター”が振りきれているんでしょう。会話分析の本格的な文字起こしについては、またいつか。


STEP 5 書き起こす

このステップでは、自分の会話を文字にしていきます。文字化したものを「トランスクリプト(transcript)」といいます。自分の会話のトランスクリプトを作ることは英語学習のためにとても有効です。

ほとんどの受講生にとって英語の文字起こしは初めての体験。細かいことは気にしないで、とりあえず聞こえたとおり文字にしていきます。自分の発言も「こう言ったつもり」ではなく、実際に聞こえるままに。何度聞いても聞き取れないところは、あまりしつこく追わず、さくっと飛ばします。

文字起こしをやってみると「会話中はなんとなくわかっていたはずだったのに、実はよくわかっていなかった」と気づくことがあります。また、文字にしたことで同音異義語による勘違いが発覚し、それをきっかけに話の内容が一挙にわかる、なんてこともあります。

コーチである私は、会話を再生しながら、受講生のつくったトランスクリプトを見ていきます。こうすることで受講生の耳にどう聞こえているかを正確にチェックすることができます。

トランスクリプトから、リスニングを強化

フィードバックでは、修正が必要なところを拾いつつ、受講生の聞き取りレベルに応じて一段上へ進めるようにします。たとえば、聞き取れていないところに単語がいくつ隠れているか、その単語がどの文字ではじまるかを知らせると、ひとかたまりに聞こえていた部分に切れ目ができて、ナゾが解けやすくなります。ナゾが解ければ脳にうれしい"aha moment"が起きます。

聞こえなかった部分は、いったん聞こえると、そこから先は毎回確実に聞き取れるようになります。むしろ、そうとしか聞こえない。「なぜ今まで聞こえなかったのだろう」と不思議になります。こうしたトレーニングによって、いわゆるリスニングのコツをつかむ受講生もいます。


聞き取れない理由

文字起こし中に聞き取れない理由は、おそらく以下のどれかです。
(1)雑音、途切れなど、録音環境がよくない
(2)相手の声が小さい、発音が不明瞭など
(3)発音の仕方に勘違いがある
(4)意味のわからない語や表現が使われている
(5)文の構造がつかめていない
(6)前後の文脈を見失っている

(1)と(2)の場合、受講生の英語力とは関係がありません。それでも、まじめな学習者は「リスニング力が弱いせいで、聞き取れない」と自分を責めたり、無駄に凹んだりしちゃうもんなんです。

聞き取りにくい部分は、私も何度かトライしますが、聞き取れなければ「ここは、私も聞き取れません」と伝えます。受講生の中には「コーチでも!」と驚く人がいますが、すぐに「そうか、考えてみれば当たり前だな」と気づきます。

私はアメリカの大学院で文字起こしのトレーニングを受けはじめた頃、聞き取れない部分にしつこく食らいつき、それでもどうしても聞き取れなくて、「やっぱりノン・ネイティブには無理なんだ」と落ち込んだことがあります。助けをもとめて研究仲間や教授たちに聞いてもらうと、あっさり「ここは inaudible だね」と言われました。ネイティブだろうと、文字起こしのベテランだろうと、聞き取れないものは聞き取れない。「そんな当たり前のことが見えなくなっていた」と気づいた瞬間でした。

一方、(3)~(6)は、英語学習のうち、それぞれ別の分野のスキルが関わっています。実際の会話を使い、書き起こしを体験しているから、そこから出てきた問題は受講生にとって「自分ごと」。真剣に取り組もうという気になります。しかも、すでに問題が仕分けられているから取り組みやすく、効率よく進められるのです。

文法、語彙、発音、コミュニケーションも

修正とフィードバック。このやりとりを通じて、受講生はリスニングのほか、文法、語彙、発音、コミュニケーションなどについてさまざまな発見をしていきます。ここで発見したことは、「STEP 7 レッスン」の材料になります。


Photo by Kaitlyn Baker on Unsplash

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