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美咲|上田義彦

写真集について書くマガジン、5冊目は上田義彦さんの「美咲」。

この写真集は、私にとって5本の指に入る一冊。そして、それは今後も変わらないのでは、と思う。

上田義彦さんといえば、日本の広告写真の巨匠。
たとえその名を知らなくとも「サントリーウーロン茶」の一連の広告写真を見たことがある人は多いはず。例えば、この一枚。

上田義彦『いつでも夢を』より

これはのちに、『いつでも夢を』(2023年赤々舎)というタイトルで20年分のサントリーウーロン茶の広告写真とその制作とともに撮影されたスナップ写真で構成され一冊に纏められている。

もう一冊、『at home』(2006年リトル・モア)という写真集がある。
こちらは、ご自身の家族を13年間撮り溜めたもの。妻である桐島かれんさん、そして4人のお子さんとの生活にレンズを向けたもの。
普段仕事では大判カメラを使う上田さんが小型なM型ライカを通して向けた家族への視線。家族のアルバムでありながら、そこには永遠を感じさせる瞬間が映っている。

上田義彦『at home 』567ページと、かなりのボリューム

そして、今回取り上げた写真集『美咲』(2003年リトル・モア)。
女優の伊藤美咲さんを撮影したものだが、その中身を見ると、紛れもなく上田義彦さんの写真集だとわかる。

上田義彦『美咲』比較対象がないが、かなりの大判サイズ

下手をするとグラビア写真になってしまうところを、上田義彦という写真家の手にかかるとこんなにも作品になってしまうのかと唸る。
後の監督映画「椿の庭」に通じていく日本の家屋や庭への審美、谷崎にも通じる陰翳に対する深い感受性、女性に求める美意識が、幾重にも連なりページ構成されている。

この3冊からわかるように、上田義彦という写真家は、広告、女優、家族という枠組みを設けつつも、全てがアートワーク、もう少しシンプルに言ってしまえば、「すべて写真である」というスタンスを貫いている極めて稀有な存在。

今回取り上げた『美咲』は、女優写真集という枠組みを借りた、日本やアジアの美意識を結実させた作品集、私はそのように見ています。
随分前に絶版していますが、上田義彦さんの『美咲』、ぜひ一度は見てほしい。

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