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ハチミツと家族
昔からよく、知らないおじちゃんやおばちゃんに話しかけられることがある。
飲み屋や公園、歩道や喫煙所、とにかくどこでも話しかけられる。
僕のことをよく知っている友達は「お前ほんとによく話しかけられるなあ、なんでやろなあ」と言ってくる。
悪い気はしない。
これは僕が生まれ持った才能、特殊な能力だと思っている。
僕はおじちゃんやおばちゃんが大好きなので、何かそういう雰囲気みたいなもの(おじいおばあ大好きオーラ的な)が出ているから向こうも話しかけてしまうのかもしれない。
おじちゃんやおばちゃんと話すのはすきだ。
可愛いし飽きない。
それにおじおばの言葉には魂が宿っている。
たまに稲妻が落ちたような、衝撃的で深い感銘を受けるときがある。
日本全国、各所で知り合ったおじおばとの思い出がたくさんある。
たくさんあるが、今日はひとつだけ、よく思い出すおじいの話を。
約3年前のこと、河原で当時の相方とネタ合わせをしていた。
僕たちはベンチに座り、小休憩をしていた。
すると、両手に杖を持った、杖2本使いのおじちゃんが歩いていた。
今から大きな山にでも挑戦するんかなあ、とか思いながらほのぼの見ていると、そのおじちゃんがどんどんこっちに近付いてきた。
、、あれ、これ俺らめがけて来てない?なんで?
後ろを振り返ってみても、険しい山などはなく、おじちゃんが進む直線上には僕たちしかいなかった。
まさに一点突破という感じだった。
とうとうおじちゃんが僕たちの目の前にやってきた、そして立ち止まり、一言。
「、、何してんの?」
、、ん?、、、ナンパ?
今おじちゃんからナンパされた?
いやそんなわけはないか。
「あ、ネタ合わせです」
「お兄ちゃんたち芸人か?」
「まあ、はい」
おそらくだが、僕たちが人目を気にせず大声でずっと漫才の練習をしていたので、それを不思議がって喋りかけてきたのだろう。
そこからおじちゃんは僕たちの横に座り、3人でたくさん世間話をした。
僕たちのお笑いの話やおじちゃんの人生の話を、ネタの練習などそっちのけで、気付けば2時間以上も話していた。
おじちゃんは趣味で養蜂をやっているらしく、とれたハチミツがとんでもなく美味しいとのこと。
ジャムを入れるような大きめの瓶で、5000円ぐらいの値段がするとか言っていた。
それと印象的だったのは、おじちゃんは寒すぎて、定期的に目から涙をこぼしていた。
普通の会話をしながら何事もないような顔で涙をこぼしていた。
僕たちもそれが当たり前のような顔で、そのことについては一切触れず、こぼれ出る涙を見ながら普通に会話をしていた。
僕も年老いたらこうなるような気がした。
おそらく、若くして末端冷え性の辛さに悩んでいるからだと思う。
おじちゃんと話すのは楽しかったが、僕たちはネタ合わせをしなければいけなかったので、そろそろといった感じでおじちゃんと別れようとした。
すると、おじちゃんは寂しそうに「いつもここにいるの?」と尋ねてきた。
僕たちは、毎週土曜日の昼頃にここでネタ合わせをしていると伝えると、「じゃあ来週またこの時間に来るから!ハチミツ持ってくるから!」と言って颯爽と消えていった。
そして次の週、僕たちが大声で漫才の練習をしていると、同じ時間に登山おじちゃんは現れた。
そして宣言通り、大きめの瓶に入ったハチミツを僕たちにくれた。
ハチミツを舐めてみると、とんでもなく甘くて、もう甘すぎて逆に苦いまであった。
これを舐めるだけで全ての病気が治るような、とても優しい味がした。
そしてこの日もおじちゃんと世間話をたくさんした。
この日おじちゃんは、全てを悟ったような顔で「最近になってようやく人生とは何かがわかった」と言った。
ここで僕はどうしようかと、おじちゃんが70年くらいかけてようやくわかった答えを、こんな若造が聞いていいものかと、答えを聞くとなんだかずるい近道をしているような気がして、話を聞くのを少し躊躇った。
だが、聞かないと一生後悔しそうな気がして、「何なんですか?」と聞いた。
するとおじちゃんは寒そうに震えながら、「人生とは家族なんだよ」と言った。
生まれてきた時点で繋がりがあるものは家族しかないから、人生とは家族なんだと、どんだけ憎かろうがどんだけ嫌いだろうが、人は家族と繋がるために生まれてきたのだと、そう言った。
僕は、その言葉にすごい感銘を受けた。
心の底からたしかにと思った。
今まで喉の奥につっかえてたような、言語化できないモヤモヤのようなものが、登山おじちゃんのその言葉によって晴れた気がした。
「人生は家族、生まれてきた時点での繋がりは家族しかないから、人間は家族と繋がるために生まれてきた」
僕も無意識にそう思っていんだと思う。
だからこんなにも家族や親戚のことが大好きなんだなと、やけにすごく腑に落ちた。
登山おじちゃんは、兄弟だったか母親だったかと今でもすごい仲が悪いらしく、歳をとればとるほど積もり積もったしこりはとれないから、できる限り家族を愛しなさいと、そういったことも教えてくれた。
寒がりながら、涙をこぼしながら。
それ以来、そのおじちゃんとは会っていない。
会ってはいないが、あの日のおじちゃんの言葉は深く胸に残っている。
人生とは家族、その言葉を思い返すたび、甘いハチミツの味を思い出す。
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