誰も見てくれていない夜
先週の日曜日のこと。
後輩と昼からWINS(競馬を見たり馬券を買ったりする競馬狂いの吹き溜まりような場所)に集まり、競馬の重賞2レースを予想し馬券を買ってからWINSを出た。
お腹すいたね〜、つけ麺食べたいね〜と話しながら歩いていると、目の前に「萬馬軒」というつけ麺屋さんがたまたま現れた。
これはもう行くしかないなと、今日は神がかっているぞと、もう絶対勝ち確やん、逆に今日勝てんやったらいつ勝てるん、とか言いながら店に入ると、店内は競馬新聞を持ったおっちゃんたちで溢れかえっていた。
いやみんな考えることはいっしょかい、可愛いな、と思いながらつけ麺を秒で完食し店を出た。
よーし今日は当てるぞぉ〜2レースの内どっちか1つはぶち当たるやろぉ〜と後輩とキャッキャ言いながらレースを視聴。
普通に三万負けた。
両レースとも外しに外した。
いや何が万馬券なん、クソッタレ、と言いながらいつもいく喫茶店へ。
そこで僕は先週このnoteに上げたエッセイを書いていると、後輩が僕が持ち歩いているガラケーに憧れて、自分もガラケーを買いますと、後輩力高めのことを言いだした。
そして僕がエッセイを書きまくる中、どのガラケーがいいですかねえ、これもかっこいいですよねえ、どれにしようかなあ、と耳障りなことをいっぱい喋りかけてきた。
こちとらエッセイに集中したいのに、お前のガラケーなんぞ知るか、なんなら今日三万負けとんやぞこっちは、と怒鳴ってやりたくなったが、ガラケーを見る後輩の目があまりにもキラキラしていたので、僕が怒鳴る隙など一つもなかった。
そして、4時間かけて無事にエッセイを書き終わり、2人で居酒屋へ。
僕が現金を持っていないので(競馬で三万なくなったから)カードが使えるお店しか受け付けていなかったのと、2人で飲みにいくのに激安居酒屋は嫌だったので、後輩と街を練り歩いた。
ここで一軒、雰囲気のある焼き鳥屋さんを発見。
後輩に「ここカードが使えるか聞いてきて」と頼み、後輩をその店に突撃させた。
お店から戻ってきた後輩は「ここカード使えないみたいです、、」と申し訳なさそうに言ってきた。
中でどんなやり取りがあったかはわからないが、カードが使えるかどうか聞きにくるだけなんて、おそらくお店の人は初めての経験だっただろう。
もしかすると、カードは使えるけど、こいつめちゃくちゃ怪しいなと思われてカードが使えないと言って断っただけかもしれない。
気を取り直して次のお店へ。
これまた雰囲気のある居酒屋さんを見つけたので「よし、行ってこい」と後輩に目配せをし、カードが使えるかどうかだけを聞きに行かせた。
お店から戻ってきた後輩は、また申し訳なさそうに「カードは使えるけど次は満席です、、」と言ってきた。
あちゃ〜そのパターンもあるのか〜と言いながら帰ろうとすると、そのお店からおっちゃん(お店の人)が出てきて「やっぱ二席いけるよ!」と元気に言ってきてくれた。
そして僕たちは無事、雰囲気もあってカードの使えるお店に入店することに成功した。
たまたま入ったお店だったが、割と老舗なところらしく、料理もお酒も美味しくて最高だった。
お酒のメニュー表に「ジャバラ」という見たことも聞いたこともないお酒があったので、元料理人でもある後輩に「この酒って何なん?」と聞くと、その後輩は「まあ、ジャのハラっすかねえ」と訳のわからないことを言っていた。
気になったのでとりあえずジャバラを頼んでみると、黄色い酎ハイのようなものが届いた。
僕がその黄色酎ハイに見とれていると、おっちゃん(お店の人)が「これはカボスのお酒で、和歌山でできたんだよ」と優しく教えてくれた。
ジャのハラとか言うやつとは大違いだった。
ジャバラはすごく飲みやすく、味も非常に美味しかった。
結局、2時間ほど飲んでから会計をPayPayで支払って店を出た。
終電まであと40分ほどあったので、コンビニでお酒を買い、外で話しながら飲んでいると「コノバショワカリマスカ」と、ある外国人に絡まれた。
その外国人はどうやら快活クラブに行きたいらしい。
地図を見るともう目の前だったので、そこまで案内してあげた。
その後、僕たちはまた定位置に戻り、お酒を飲んでいると、先ほどの外国人が「イッパイダケノミマショ」と缶ビール片手に戻ってきた。
断る理由などどこにもなかったので、3人で飲むことになった。
聞けば、その外国人はモンゴル人らしく、普段は現場仕事をしているらしい。
ドラゴンズのユニフォームを着ていたので「ドラゴンズ好きなの?」と聞くと「イヤイヤスキジャナイ」と言っていた。
全く好きじゃないのに着ているそのドラゴンズのユニフォームが、僕にはなぜかすごくかっこよく見えた。
結局、終電前まで3人で飲み、僕たちは各々の場所へ帰ることになった。
僕は、ほろ酔いで電車に乗り込み、いつものコースで帰っていると、各停と急行を乗り間違え、最寄りから2駅も乗り過ごしてしまった。
ん〜〜なんか散歩したい気分やし2駅分歩いて帰るか〜と思い駅を降りると、駅前で移動車に積まれた大量のメロンが売られていた。
へぇ、こんなんあるんだあ、と思いながら一旦スルーしたのだが、この時間にまだあんなに売れ残っているなんて可哀想だなという余計な感想が脳裏によぎり、メロン移動車の方を振り返って見てみると、メロンを売っている親父さんの背中が少し寂しそうに見えた。
一旦通り過ぎたはずなのに、気付けば僕はメロン移動車の方に戻ろうとしていた。
はあ、もう馬鹿馬鹿馬鹿、あと財布に現金3000円しかないって、どうやって生活するん、止まれ俺。
そう自分に言い聞かせるも、僕の歩みは止まることなく、メロン移動車に到着。
極み・特秀・秀・普通・小玉と、メロンたちにはランクがあり、極みのメロンは4500円もした。
小玉は2つで500円と買いてあったので、これだぁ!!と思い「小玉2つください」とお願いした。
すると、さっきまで寂しそうな背中をしていたはずの親父さんが意気揚々と「小玉はこんなに小ちゃいよぉ?こっちの大っきい秀の方がいんじゃないぃ?」とがめつい押し売りをしてきた。
秀は2200円もするので一瞬の躊躇はあったが、なんか断るのもダサいと思ったので「じゃあそれで」とテンション低めに言った。
するとその親父さんが「じゃあ2個で3000円にしてあげるよ」と言い、勝手に袋に2つメロンを詰めだしたので、これは流石にと思い「いや2つはいらないです」と言い放ってやった。
ていうか正直1つもいらんのやけど、なんで今メロンを買っているのか自分でもわかってないんやけど、と思いながら袋に入ったメロンを受け取った。
すると親父さんが「じゃあ兄ちゃん、買ってくれたから2000円でいいよ」と言ってきたので「いやいいすよ」と言って2500円を渡し、その場を後にした。
今思うと、この300円多く渡すという行動は、売れ残ったメロンを抱えている親父さんに対する優しさなどではなく、こんなジリ貧の若者にがめつく押し売りをしてきた親父さんに対するアンチテーゼを掲げるためのものだったのかもしれない。
そして、帰り道にコンビニ寄り、お酒を1本だけ買った。
僕は、300円多く払って買った秀のメロン片手に、缶酎ハイを飲みながら少し遠回りをして帰った。
別に家族がいるわけでもないのに、メロンが特段好きなわけでもないのに、帰り道にメロンを買っている。
なぜだろう、なぜ僕は今メロンを持っているのだろう、誰に見られているわけでもないのに、お金だって全くないのに、なぜ僕はこんなことをしてしまうのだろう。
頼むから誰か見ていてくれ、頼むから今の一連の流れを見ていてくれ、そうじゃないと、そうじゃないと僕とこのメロンが報われないじゃないか。
誰も見ていないのにひとりでこんなことをしてしまう、こんな癖をやめたいものだ。
そんなことを考えていると、家に着いた。
そして、次の日食べた秀のメロンは、なんか微妙な味がした。