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上には超超超上がいる


車酔いがひどい。

小さいときからずっと苦しんでいる。

助手席でも窓全開でも関係なく、吐き気が押し寄せてくる。

最近は結構慣れたが、ひどいときは自分で運転していても気持ち悪くなるときがあるぐらいだった。

地元の同級生や家族親戚の中では、僕の車酔いがひどいのは有名な話で、こと車酔いに関しては地元じゃ負け知らずだった。

なので、車でどこかに行くときは大抵僕が運転することになり、運転したくなくても車酔いするよりはマシなので、いつも仕方なく運転をしている。
吐き気を催しながら運転しているのに、10年間無事故無違反のゴールド免許の僕をもっと褒めてほしいぐらいだ。

酔い止めも必需品でかなりの量を家にストックしている。
だが、これほどの車酔いの持ち主でも、流石に吐いたことはなく、いつもただただ気持ちが悪くなるだけだった。

そして、ここからは先週の話。

同期4人で千葉の御宿の海に泊まりで行くことになった。
御宿までは車で約2時間半かかるので、車酔いする僕は運転手として立候補した。

僕以外にもう1人車酔いする同期がいたのだが、そいつとは一度も同乗したことがなく、車酔いするという噂だけを聞いていた。

こと車酔いに関しては地元じゃ負け知らずの僕だったので、その同期に対してもまあ俺よりはひどくないだろと、俺と張り合えたら大したもんよと、強者の余裕を醸しだしながら当日を迎えた。

色黒でオカッパの同期と、ビール中毒でハゲ気味の同期と、車酔いするオカッパの同期と、車酔いする金髪ロン毛の僕との男4人旅行だった。

そして、朝8時に渋谷に集合。

僕は夜勤明けで渋谷に直行し、7時半には渋谷に着いていたのだが、色黒オカッパは遅刻で8時を過ぎるという連絡があり、ビール中毒ハゲは連絡がつかず、おそらく寝ている可能性が大なので、車酔いオカッパが家まで迎えに行った。

朝8時集合だったのに、8時を過ぎても金髪ロン毛の僕ただ1人だけが集合場所にいるという悲しい状況からその日はスタートした。
見た目だけで言えば金髪ロン毛が1番遅刻しそうなのに、30分も前に到着している自分が恥ずかしくなった。

しかもこの旅行は当初、僕以外の3人で計画しており、僕は急遽呼ばれた身だった。
なのに、30分前に僕だけ到着し、なんならレンタカーも僕が予約したし、なんなら車内で聞く用の夏プレイリストも作ったし、なんならこの日のためにわざわざ髪も染めたし、なんなら夜勤明けやし、なんで僕だけこんなに気合いが入っているんだと、同期3人を待ちながら半ベソをかいていた。

そして案の定、ビール中毒ハゲは寝ていて、車酔いオカッパが家まで起こしに行っていないと危ないところだった。
ビール中毒ハゲはテレビ電話で呑気に「慶士おはよ〜」と言ってきたので、そんなこといいから早く用意して今すぐ来いとキレたくなったが、全てを押し殺して「おはよ〜」と返してあげた。

僕の中で、寝坊して遅刻とそれを起こしに行っての遅刻は全然許せたのだが、色黒オカッパのシンプル遅刻だけは意味がわからなさすぎて1番腹が立った。

そして、ビール中毒ハゲと車酔いオカッパは渋谷までタクシーで来ることになり、ここでこの2人と色黒オカッパのデスレースが始まった。

色黒オカッパよりも2人が先に着くと、2人のタクシー代は色黒オカッパ持ちで、もし同時に着いた場合は僕が支払うという意味のわからないゲームをノリで始めてしまった。

そして8時半頃、汗だくで色黒オカッパが到着。
負けたくないので駅から猛ダッシュで来たとのこと。
かいている汗の量から、色黒オカッパのお金のなさがうかがえた。

そして、色黒オカッパが到着してから約5分ほどして、2人がタクシーで到着。

ビール中毒ハゲは缶ビール片手に陽気に登場してきた。
車酔いオカッパはとんでもなく気分悪そうな顔で登場し、タクシーを降りてから速攻でおゲロを吐いていた。

僕の車酔い連勝記録が途絶えた瞬間だった。

こんな短い距離を車に乗っただけで吐くなんて、この僕でもありえないことだった。
こんなやつがいるんだと、世界って広いなと痛感させられた。
僕は口が裂けても、おれ車酔いするんだよねみたいな戯言は言えなくなった。

そして、4人で車に乗り込みいざ旅行がスタート。
金髪ロン毛の僕が運転席、ビール中毒ハゲが助手席、車酔いオカッパと色黒オカッパが後部座席という布陣だった。

車に乗り込んですぐ、車酔いオカッパがビニール袋に大きめのおゲロを吐いていた。
これから2時間半もあるというのによく旅行に行こうとしたなと、そのガッツさを褒め称えてあげたくなった。

実は、僕以外の3人は去年も御宿に行ったらしく、そのときは計8回吐いたとのこと。
僕は10年間無事故無違反のゴールド免許で、運転の上手さには定評があるので、今回の旅は任せろと、吐かせないように緩やかな運転でいってあげると車酔いオカッパに豪語した。

そして、車酔いオカッパのために最短ルートで行こうと、道を間違うとそのぶん車に乗る時間が長くなるので、絶対に道だけは間違えないようにみんなで協力して道案内することを誓った。

すると、走り出してから1番最初に右折しなければいけないところを颯爽と通り過ぎてしまった。
その事実を知り、車酔いオカッパが500mLぐらい吐いていた。

この時点で、道案内係であるビール中毒ハゲが機能しないことがわかった。
道案内をミスったのにも関わらず、ビール中毒ハゲは2本目の缶ビールを開けていた。

「ここ曲がるとこやった〜!ごめん! (プシュッ)」

いやプシュじゃないんよ、一仕事終えましたみたいな感じやめろ、と心の中で思った。

そして、車に乗ってから約1時間、車酔いオカッパは後部座席からの嗚咽がBGMになるほどずっとオエオエ言っていた。
僕の夏プレイリストが台無しになるくらいのオエオエ具合いだった。

途中サービスエリアに寄ったのだが、ビニール袋ぱんぱんの吐瀉物を抱えた同期が死にそうな顔をして車から降りてきた。
しかも、そこのサービスエリアのトイレでもしっかり吐いていた。

そして、サービスエリアで小休憩し、再度車に乗り込んだ。

ここからみんなでゲームをしようと、各々で言ってはいけない言葉を設定し、もし言ってしまうと100円という可愛い遊びを始めた。

僕は口癖の「たしかに」と「まじで」の言葉が禁句になり、色黒オカッパは「何?」「なんで?」で、ビール中毒ハゲは「めちゃくちゃ」「めっちゃ」「マッチョ」になった。
車酔いオカッパは車に酔いすぎて言葉を発することができなかったので、吐いた回数×100円になった。

結局、御宿に着くまでに僕は11回、ビール中毒ハゲは19回、色黒オカッパは37回も禁句を発していた。
車酔いオカッパはというと、22回吐いていた。

ゲームを開始してから22回なので、行きの車だけでも合計50回は吐いていたと思う。
もう吐きすぎて終盤は胃液だけになり、そこを超えるとなんか真っ黒い液体を吐いていた。

地元じゃ負け知らずの僕は、上には上がいるんだなと、井の中の蛙は大海を知った。

御宿に着くまでに計5回道は間違えたけど、ずっととてつもなく楽しく、最高の1泊2日で最高の夏だった。

また来年も行く約束をしたので、そのときまでにはもう少し緩やかな運転ができるようになっておこう。

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