ケイバーベキュー
4日前のこと、競馬場で走る馬を見ながらBBQをするという夢のような体験をしてきた。
肉を食らいながら賭け事をするという、さながら貴族のような、さながらカイジの鉄骨渡りを見る富裕層のような、そんな遊びをしてきた。
その日のメンバーは同期の5人。
僕と他2人は競馬に命をかけている組で、他2人はあまり競馬をやったことのないやつらだった。
BBQ自体は18時からで、その日のメインレースは20時からだったのだが、僕ともう1人の競馬狂い同期は、第1レースから楽しみたかったので、14時に競馬場に集合した。
レースは全部で12レースあり、メインレースは11レース目。
なので、11レースまでに資金を貯めて、メインレースでぶっ込んで人生を変えるという算段だった。
僕と競馬狂い同期は、意気揚々と第1レースから始めた。
そして、着々と負けを積み重ね、今日で人生を変えるつもりが、今日で人生が終わるんじゃないかと思い出していた。
もう食わなきゃやってられないと思い、この後BBQが待ち構えているにも関わらず、気付けば僕は焼きそばと焼き鳥2本とビールを飲んでいた。
そして、第4レースにさしかかった頃、他の同期も続々と集まりだし、やっとみんなで同じレースを堪能する時間がやってきた。
すると、競馬ド素人の同期2人が開始早々、万馬券を的中させた。
どうなってるんだこの世の中は、なぜ頑張っているやつに光が当たらないんだ、僕が一番競馬に対して真摯に向き合っているはずなのに。
僕は、この後BBQが待ち構えているにも関わらず、気付けばたこ焼きとレモンサワーを飲んでいた。
すると、競馬狂いの同期がここであるものを発見した。
500円以上馬券を買った者だけが受けられる抽選をやっていたのだ。
商品はメインレースをモチーフにした帽子で、レース前の500円馬券さえ持っていれば何度でも抽選できるという太っ腹企画だった。
2000個限定で終了ということもあり、そこには長蛇の列ができていた。
僕と競馬狂い同期は、とりあえず並んでみるかということで列に並んだのだが、あっけなく抽選はハズれ、競馬は負けるし帽子はハズれるしでなんてこったという状況だった。
もうこうなったら競馬なんかどうでもいい、帽子を当てるまで何度だって挑戦してやるというマインドになり、僕たちは競馬そっちのけで、外れては馬券を買って並び、また外れてはすぐ並びを繰り返していた。
すると、競馬狂い同期が3回目ぐらいで帽子を当てやがった。
だが、僕は何度やっても当たらない。
なんてついてないんだ、もう誰か殺してくれ。
というか競馬場にきて馬券だけ買ってレースを見ずに帽子の抽選を受けまくっているこの状況はなんだ、何をしに来たんだ俺は。
そんなことを考えながら一心不乱に抽選を受けまくっていると、なんと8枚目ぐらいで帽子が当選した。
脳が溶けに溶けた。
もう競馬の負けが気にならないくらい嬉しかった。
そして、とうとうBBQのときがやってきた。
この時点で僕はもう2万円近く負けていた。
残されたのはあと3レース。
なんとしても取り返さないと、今月の主食がもやしになっちゃうぞ俺、がんばれ俺。
競馬の予想をしながら肉を食べる、肉を食べながら競馬のパドックを見るという贅沢な時間を過ごした。
だが、負けが積もってヤケ食いしたせいで、肉は5きれくらいしか食べられなかった。
食べ放題だというのに何をしているんだ俺は。
何が放題だ、畜生。
そして、肉を食べながらまた負けを重ね、とうとうメインレースのときがやってきた。
よーしこうなったら財布の中身を全部いってやろう、背に腹はかえられん。
財布の中を見てみると、もう7400円しか残っていなかった。
あっれ〜おかしいな〜今日の朝3万円おろしたよね俺〜なんでだ〜なんでこんなことになってるんだ〜〜。
僕は、7400円を握りしめ、メインレースに全ベットした。
会場の熱気は最高潮、興奮と激情と狂気が入り乱れる中、レースが開始した。
そして、あっけなく僕の馬券は外れた。
余裕で外れた。
だが、まわりの観客も負けているはずなのに、みんなは騎手や馬に向かって「おめでとーおめでとー!」と叫んでいた。
僕もそれにつられ「おめでとー!ありがとー!」と叫んでいた。
レース、観客、熱気、臨場感、馬と騎手、全てが相まって、とても良い景色が見れたと感動した。
だが、僕たちの戦いはまだ終わっていない。
そう、あと1レース残っているのだ。
消化不良のような1レースだが、僕はこれで捲らなければならないのだ。
もう財布の中身は空っぽなので、同期から5200円を借りてレースに挑んだ。
もちろんしっかり外した。
甘くはない現実をつきつけられた。
5きれくらいしか肉を食べていないのに、なぜか胃もたれすらしてきた。
結局、僕はその日31650円負けで終了。
いっしょにきた5人のうち4人はコテンパンにやられたのだが、ほぼ競馬初めてのドドドド素人の同期だけ5000円勝ちだった。
ビギナーズラックなんかクソ喰らえと思った。
だが、僕は帽子を手にしている。
だから心は割と朗らかだった。
帽子代にしては少し高いけれど、5000円勝つよりかは31650円負けて帽子を当てる方が得だなと思った。
いや、そんなこともないか。