後輩
最近、ある後輩を可愛がっている。
可愛がりすぎて、ここ2ヶ月でその後輩に小型犬が2匹買えるぐらい奢っている。
僕は毎週日曜日にYouTubeを撮っているのだが、後輩はそのYouTubeのカメラマンをしてくれている。
2人で登録者数を伸ばそうと毎週励んでいるのだが、これが何故か全く伸びやしない。
noteのフォロワーは1000人を超えているのに、YouTubeの登録者数はいまだ174人だ。
いやどういう意味?
なんで?
そんなに俺のこと映像で見たくない?え?
YouTubeで1000人越えるよりnoteで1000人越える方が遥かに難しいと思うのだが、noteで1000人越えているならYouTubeは8万人ぐらいいってもいいと思うのだが、noteよりもYouTubeに多大な時間とお金をかけているのだが、これはどういった現象なのだろうか。
世の理とはいささか難しいものだ。
まあいいや、脱線した話を戻そう、その後輩について。
YouTubeの他にも僕が出るライブやオーディションを手伝ってくれたりもしている。
僕のライブの日程が出るたび、その後輩から電話がかかってきて「慶士さん、この日ライブですけど空けときましょうか?」と連絡がくる。
僕はその電話で自分が出るライブの日を知る。
毎回「まあまだなんするか決まってないけどとりあえず空けとって」と言うが、特に手伝ってもらうこともないので、当日その後輩は僕のネタをただ舞台袖で見守るだけになることが多い。
それでも毎回来てくれる。
僕からするとただいてくれるだけで心強いので、ぼく的にはとても助かっている。
とても助かってはいるのだが、どこが可愛いのかと聞かれるとわからない。
顔は小ブスだし手に気色の悪いイボがあるしぜんぜん口が臭いときもあるし。
なぜ僕はこんなにもこいつを可愛がっているのだろうか。
まあ僕の言うことをなんでも聞いてくれるしカバンとかも持ってくれるし僕が銃撃にあったりしたら身代わりになってくれそうだし、可愛がっているというよりも従えていると言った方が合っているのかもしれない。
こないだなんかも、僕が番組のオーディションがあり、当日の15時すぎにフジテレビへ行かなければいけなかった。
なので、14時半頃に後輩とお台場に集合した。
もちろん、後輩はオーディションに参加するわけではない。
ぼく単体でのオーディションだったが、いつものようについてきてもらった。
そして、フジテレビの受付へ行き「あの、今日オーディションは僕だけなんですけど、こいつ僕の付き人みたいな感じなんでこいつも楽屋までいっしょに入れないですかね、、」と言うと、もちろん断られた。
テレビ局のセキュリティはそこまで甘くはなかった。
なので僕だけ中に入り、後輩に「適当にそのへんで待っといて」と言って一旦、解散をした。
オーディションは待ち時間も合わせて3時間ぐらいあり、結構な長丁場になった。
終わってから後輩に連絡すると、後輩は3時間もテレビ局の真横の芝生で寝ていた。
いやそのへんで待っといてとは言ったけど、普通カフェとかファミレスとか行くやろ、そのへんすぎるってそれは。
オーディションなんか絶対長くなるのわかっとんやけ、真夏に3時間芝生て、いかれすぎやろ。
後輩は蚊に刺されすぎて、もう終盤から全く蚊に刺されなくなったと言っていた。
あと幼稚園児2人から怪訝な目で見られたとも言っていた。
後輩力が高いというかなんというか、後輩力の高さが変な方向にいきすぎている。
なぜ僕はこいつをこんなに可愛がっているのだろうか。
あとこいつの特徴と言えば、左利きの元料理人ということ。
僕は丁度、常日頃から左利きで元料理人の後輩を従えたいと思っていたので、たまたまドンピシャなやつが現れて歓喜した。
別に左利きの元料理人だから従えだしたわけではないのだが、従えだしたあとに左利きの元料理人であることを知って嬉しくなった。
居酒屋などに行き、聞いたことのない料理があるといつもどんな料理か教えてくれる。
これもポイントが高いところ。
こないだなんかは海鮮系の居酒屋に行き【ガメ煮】という料理があったので「これってどんなやつ?」と聞くと「え〜っと〜、カメ〜を煮たやつ〜ですかねぇ」と言っていた。
届いたガメ煮は、鶏肉と野菜の煮付けだった。
いやめっちゃ筑前煮やん、なんなんカメを煮たやつって、わからんならわからんって言えばいいのに、なんなんこいつ。
なぜ僕はこいつをこんなに可愛がっているのだろうか。
思い返せば、こいつとの初めての出会いはとっても最悪なものだった。
僕と同期が2人でカフェに行ったとき、僕が喫煙所に行くと、目つきの悪い野郎がひとり座り込んでいた。
僕は (なんやこいつ、、) と思いながらそいつを睨むと、そいつも僕に睨みをきかせてきた。
それがその後輩だった。
すぐに僕の同期が喫煙所に入ってきて、その座り込んだ野郎を見ては「お〜もうええてお前、どこにでもいるやん」と言い、そいつも僕の同期にすぐさま挨拶をしていたので、そこでそいつが僕の後輩であることが判明した。
僕が先輩と分かった途端、睨んだ顔を無理やり朗らかな顔に修正し、全力で挨拶をしてきた。
そこでたまたま3人で話すことになり、僕と同期はその日、ラーメン二郎に行くために集まったのだが、そのことを後輩に言うと「いや、二郎さっきやってなかったすよ」と、僕らに対して変な嘘をついてきた。
いやいやいや、やってないわけがないと、こっちは事前に調べとるし定休日でもないし絶対にやっとると、それを後輩に言うと、後輩は真っ直ぐな目で「いや、ほんとにやってないです」と言ってきた。
ほうほうほう、そうきたか、それならこっちも受けてたとう。
「じゃあわかった、二郎がやってなかったらキャバクラ奢ってやるわ、でも二郎がやっとったら俺のための合コンを開けよ」
と言うと、その後輩はニヤけ面で「、、いやいいすよ」と言ってきた。
今になってみるとそのニヤけ面が死ぬほど腹立つのだが、そのやりとりがないとここまで仲良くなっていないことを考えると、まあよしとすることにしよう。
結局、その日は二郎が臨時休業で僕はキャバクラを奢るハメになってしまったのだが、その日はお互い予定があったので、また後日にしようということにった。
そして後日、後日というかその日からちょうど一年経ち、そいつと飲みに行くことになった。
その飲んだ日から、火花の徳永と神谷さんばりに仲良くしている。
そして先日、後輩からある一本の電話があった。
その電話は、後輩が賞レースの1回戦に通過したという知らせだった。
僕に一番に知らせたくて、いの一番に声を震わせて連絡をしてきてくれた。
僕はそれがうれしくて、後輩が賞レースに受かったことはもちろん、僕に一番最初に連絡くれたことがうれしくて、僕はその日バイトだったのに、酒をたんまり飲んでしまいバイトどころではなくなった。
なぜ僕はこいつをこんなに可愛がっているのか、答えは至極簡単だった。
可愛いから可愛がっている、ただそれだけ。
小ブスで手に気色悪いイボはあるしなんか先輩に対して失礼をすることはたくさんあるらしいけど、僕から見て可愛かったらそれでいいのだ。
今これを書いている目の前にもその後輩がいる。
後輩は僕のエッセイが書き終わるのを居酒屋で待ちながら、生姜おろしサワーをマドラーでツンツンしている。
あ、いま酢ダコを食べた。
と思ったらまたマドラーでツンツンしだした。
そして生姜おろしサワーを一口飲み、奥の年増女を舐めまわすように見ている。
その姿を見てやっぱり思う。
なぜ僕はこいつをこんなに可愛がっているのだろうか。