良いきものとは何か?
よく「良いきものの選び方を教えてください」と聞かれる。
ある意味難しい質問であり、着る人が心の底から着てみたい、あるいは自分がすごく気に入ったものが最良のものである事は間違いない。
どんなに素晴らしい技術で手間暇がかかっていたとしても、選ぶ人の心を打たなければ、それはその人にとって相応しくないと言えよう。
だが、あえて良いきものとは何か?あるいは良いものの見方を問われれば、私は染めのきものであれば、まず色を見て欲しいと言っている。
色は人間の心理的に大きく作用する事は誰もが知っている事であるが、特に日本人は色に対しての感性は非常に豊かであり、様々なコトやモノ、感情など目に写るものから感じるモノを全てを色に例える。
例えば緑という色は濃淡、明暗で様々な色が存在するが、それを鶯色、萌黄色、浅葱色、青柳、織部など調べたところ日本の伝統色として認知されている緑色系の名称だけで81種類もある。
また女性を例えるのに「色気」「艶」という言葉を使ったり、感情や表情を表すのに「声色」「顔色」、音を表すのに「音色」など色に例えてイメージする。
染色の世界でも、色が強いことを「目をむいている」、色が中途半端だと「色が甘い」などともいう。ポイントとなる色を「効き色」といい、着姿でちらりと覗く色を「こぼれ色」という表現をしたりする。
それだけにきものを作る染匠たちはまずいかにして理想の色を出すかに注力する。そのために発色の良い生地を吟味し、染料の配合から職人の選択まで徹底的にこだわる。いくら素晴らしい柄表現ができたとしても色が悪ければ、全てが台無しになる。
何をもって良い色と感じるかはその人なりの捉え方ではあるが、中途半端なものや量産品は論外として、良いきものといえるものの多くは色表現がやはりどこか違うのである。
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