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婚活マエストロ【読書感想】
「成瀬」シリーズが良かったので、今回も楽しみにしてました。
貯金なし、スキルなし、恋人なし。
こたつ記事ライターの取材先は、時代遅れの零細婚活会社。現れたのは、泣く子も黙る伝説の司会者・鏡原奈緒子だった。
「婚活マエストロ」とは、この伝説の司会者の威名です。タイトルにもなっているので、この司会者である鏡原奈緒子が主人公だと思っていたら、違いました。40歳でパッとしないコタツ記事ライターの猪名川健人という男性が主人公。
「成瀬」が「動」なら、こちらは「静」。
「成瀬」が「強火」なら、こちらは「弱火でコトコト」。
「成瀬」の読後がポジティブで元気をもらえるだとしたら、こちらは人生まだまだ捨てたもんじゃないよね、という感じでしょうか。
大学の同級生と比較してパッとしない猪名川。そんな自分自身や人生に諦めや焦りが入り混じった毎日を過ごしている。
猪名川がマエストロのいる婚活会社をひょんなことから手伝ううちに、自分でも人の役に立つことができるんだと自己存在感を実感できる。
人の役に立てることがこんなにじぶんの存在を肯定してくれるものなのかというのは、私も常に感じていて、どんなセラピーよりも効果があるなとおもいます。
猪名川のそういった内面の変化の描写がとても自然で、読後は自分も追体験できたような優しい気持ちになれました。
物語的には予定調和なところもあり、「成瀬」を期待していた人にはちょっと物足りないかな。
これからもいろんな角度で小説を書いてほしい作家さんです。