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今月出会えてよかった本 【2022年7月版】

今月出会えてよかった本は、野田サトルさんの『ゴールデンカムイ』です。連載開始は2014年でこれまでに31巻を刊行している長編マンガなので、厳密にはずっと前に出会っていたのですが、今月最終巻が発売されたので紹介しようと思いました。


闇鍋の中に一貫性がある

本作は本当に様々な要素が入り乱れています。日露戦争後の北海道という舞台で、文化も言語も勢力も目的も入り乱れて混ざり合いながら物語を展開させていくというのは、この時代背景だから成し得たことなのかと思います。

その時代の渦の中でありながら、キャラクターたちのほとんどは曲げることのない信念を常に持っていることも本作の面白さを補強しているでしょう。

勢力や陣営は目まぐるしく入れ替わり、「なんでこのキャラとこのキャラが共闘してんの?」「なんでこのキャラとこのキャラが戦ってんの!?」と思うことも多々ありますが、それは一貫性の行動理念の下、矛盾しない混乱が創り出されているんだなと感じられました。

カント オㇿワ ヤク サㇰ ノ アランケㇷ゚ シネㇷ゚ カ イサㇺ

「天から役目なしに降ろされた物はひとつもない」と日本語訳される、単行本の全てに必ず書かれていたアイヌ語の一文。この通り、本作は役目のないものが一つもなかったように思えます。

ストーリーの中核を担うキャラクターや設定はもちろんですが、随所に見られるアイヌ文化の豆知識やロシア文化、食事やギャグシーンやめちゃくちゃ強い野生動物に至るまで、無駄なものは一つもないのです。

いや、結構無駄なものもあったかもしれませんが。

それでもそれら全てをひっくるめたものが『ゴールデンカムイ』であり、全てのものにはカムイが宿ると考えるアイヌ文化へのリスペクトも含まれているのではないでしょうか。

日露戦争後という時代背景を巧みに使い時代考証を丁寧に行っているからこそ、この時代に存在していて出せるものはすべて出すという信念を感じられます。

言語や文化が入り乱れても混乱せずに読み進められるのは描けるものをすべて描き、それでいて無駄なものがひとつもないからなのかもしれません。

おわりに、アイヌ文化への関心

これまでアイヌ文化への関心は、歴史の勉強や時折流れてくるニュースなどでしか知ることは無く、それほど高いものでもありませんでした。

しかし、『ゴールデンカムイ』を読んでからはその関心は非常に高いものになったと思います。

『ゴールデンカムイ』が人気になっていくにつれて様々なキャンペーンやイベントが展開されたおかげもあるかもしれませんが、一番はマンガが面白かったからに尽きると思います。

マンガが面白いと、読者として時代背景や知らない単語を少しでも調べようとしますし、アイヌのキャラクターがとても魅力的に書かれているので必然的にアイヌ文化にも惹かれていきました。

ここまで魅力的にマンガを描ける野田サトルさんをこれからも応援したいと思いますし、本作のアイヌ語監修を務めた中川裕さんの著書も読んでさらにアイヌ文化への関心を高めたいと思います。

そして何より、無事に完結まで読めてよかった!

作者の野田サトルさんも、読者の私も最後まで『ゴールデンカムイ』を駆け抜けることができてよかった!今はその思いでいっぱいです。

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