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パルメザンチーズの魔法
温めたトマトが好きだ。
特にトマトのスープが大好きだ。
冬になると途端にトマトのスープを作りはじめる。
冷たい時は酸味があるのに、温めたとたん、口の中にジュワッと旨味が広がるのがたまらない。
ロールキャベツのトマト煮込み
トマトのクリームスープ
トマトのコンソメスープ
ああ、
どれもたまらない。
うっすらと残ったトマトの酸味すらアクセントになる。
こんなことを書いていたら、自然と唾液がでてきた。あの味を思い出して、ごくりと唾液を飲み込んだ。
トマトのスープを愛してやまないけれど、理想の味を作るのはなんと難しいことか。
ミニトマトを切ってトマトのホール缶と一緒に鍋に入れる。料理用の赤ワインに深みを期待してドバッと投入。その他にもスパイスやらハーブをちょっと足してみる。
入れれば入れるほど美味しくなる、足し算の法則を信じている。
トマトの酸味を飛ばすために、長めに煮込む。煮込めば煮込むほど美味しくなる、とは料理好きの母の言葉である。
時間をかけてコトコト煮込んだトマトのスープ。
赤い色がアクセントになって、期待をさらに高めてくれる。
乾燥パセリなんかを散らしちゃったりして、見た目も少しおしゃれに仕上げる。
さあ、とろっとしたスープをすくって、
ひとくち。
「あれ?」
あれだけ煮込んだのに。コクをだすためにワインをドバドバ入れたのに。
なにかが違う。
毎回、入れるものを微妙に変えたりしてみるけれど、理想の味にはなぜか近づかない。
意図せず残ってしまう酸味、そして深みのないコク。
それでも美味しいからスプーンは進むけれど、かけた労力に対して得られたものが少ない気がして釈然としない。
美味しいけれど。
けれど、なのだ。
もっと、深みのあるジュワッとしたコクが欲しいんだ!
*
いつも、ネットでレシピを見つけている。
選ぶ基準は、冷蔵庫にある食材のみを使うレシピ、一択だ。
その日は、トマトクリームスープが作れそうな食材が、たまたま冷蔵庫にあった。
ニンニク、玉ねぎ、トマト、牛乳、
バター、小麦粉、パルメザンチーズ
いつも使うような食材たちに混ざっていたのが、パルメザンチーズ。
「ふーん?」
なんて、訝しく思いつつも、レシピ通りに料理を作っていった。
野菜を刻んで、スープを煮込む。
最後にパルメザンチーズをふりかける。
パラパラとふりかけた粉は、スープにとけてすぐに見えなくなってしまった。かき混ぜたときにも、チーズのとろっとした感じはない。
深めのお皿に盛りつけて完成。
あまり期待をせずに、スプーンを口に運んだ。
「んんっ!?」
あまりに美味しいと、驚きの声がでてしまう。
今のはなんだ?
もう一口、スプーンを運んで確かめる。
次に発した声は、もちろん、
「美味しい!!」
だった。
ほんとうに不思議だ。
あれだけ探しても見つからなかったコクが、ここにある。たいして煮込んでいなければ、ワインも入れていない。
お店ででてくるようなコクが、こんな簡単に手に入ってしまうなんて。
パルメザンチーズの魔法。
ちょっと入れるだけで、味が劇的に変わるのだ。
2口で満足するはずもなく、思うがままにスプーンを運んだ。
あっと言う間に平げてしまった。
恐るべし、パルメザンチーズ。
パルメザンチーズをひとふり。
なんと簡単だろう。
とはいえ、パルメザンチーズでコクをだすのは、なんだか邪道というか負けた気がする。コトコト煮込んでコクをだすこともできるはずだ。
いつだって王道に夢を見てしまうものなんだ。
一つの正解を手に入れた。
また別の正解を手に入れるために、今日も、トマトをコトコトと煮込む。
お読みいただき、ありがとうございます。
また次の記事でお会いしましょう!
またねー!
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