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クライアントと向き合うなら、自分の価値観に自覚的になろう

わが家の老猫ががんを患っています。もう17歳。年齢から考えても、ターミナルケアの段階です。辛そうには見えないけど、猫は私たちの言葉でそれを教えてはくれない。食欲もあるから大丈夫だろう…のようにしか推測できないのが難しいところです。

見た目としては、眉間のあたりに腫瘍によるコブができています。場所が場所だけに取って調べるとなると、全身麻酔が必要になる。一見、元気だが麻酔で死に至るケースもあると聞きます。そして、がんであるとはっきりしたところで何か大きく状況を変える手が打てるわけでもありません。ある程度の寛解を目指しつつ、副作用も見つつ、抗がん剤をつかっていく…という状況にあります。

取りうる手段やその効果、あるいはそのリスクなどは、数多くの症例から明らかになっているのでしょう。そうした知見があるのは有難いことです。ただ、知見があれば解決できるかというとそうではない問題がある。それは、その手段をとることが、幸せかどうか、ということです。

猫に聞かなきゃ分からないから困ったものです。とはいえ、彼の言葉が分かったところで、彼自身も何が幸せなのか分からないかもしれません。私たちが獣医さんと話していてもそうです。私たちにとって彼がどのように生を全うしていくことが幸せなのか、自分の価値観と向き合う機会となりました。

エドガーシャインのコンサルタントの定義に①専門家②医者-患者③プロセスコンサルテーションというものがあります。これは、クライアントとの関係性に焦点を置いた定義です。
①専門家は、クライアントが知らないことを知っていることに価値がある、というものです。
②医者-患者は、一定の知見に基づいて診断し、処方を提案するということです。前提として、クライアントは患者であり直すべきことは何か分かっているということになります。
③プロセスコンサルテーションは、クライアント自身も自分が求めていることがよく分からないので、共に考えていく、そんな関係性です。

シャインは、プロセスコンサルテーションの意義を説いています。私なりの解釈ですが、医者のような知見を持ち合わせていることも必要だが、その処方をすることが相手にとって本当に幸せなのかどうか、という別次元の問題があることをコンサルタントは念頭に置くべきだということです。単純な問題じゃないし、一様に答えの出せる問題でもない。だけど、決めないと前に進まない…だから、相談しているわけです。もちろん、医者のように知見がないと、現状認識を誤る可能性もある。その意味で、医者ー患者モデルにも価値があるわけです。

ただ、これは一部を切り取った話になりますが、がんの診断にしてもAIによる画像診断が行われています。主観を挟まないで済むデータを取って、機械的に解析すれば、正確な診断が出てきます。言葉や外観から、本人の主訴とは異なる原因を見出すのが医者の技術でもありますが、このあたりもAIがカバーし始めているわけです。

経営コンサルタントも、直観的に今までの経験から仮説を立てながら、クライアントやクライアントの会社を見立てて処方を考えます。時に、この処方が偏っているために、現状分析にバイアスがかかることがあります。ゆえに、MECEに物事を見ようとするのが優秀なコンサルタントの態度です。ただ、医学同様にMECEな分析だけだったら、AIの方が優秀でしょう。…そしてMECEにこだわるだけになって、「なんかこいつエクスキューズが多いんだよなあ」という印象ももたらします。コンサルタントに対する不満、あるいは、アレルギーは、このあたりから発生しているように思います。

つまりは、相手の価値観と向き合うことも求められます。そしてこのとき、自分の価値観とも向き合うことになります。他でもない人間がやるのが経営です。コンサルタント自身が、自分の価値観に自覚的であるかどうかは、見落とされがちな重要なコンピテンシーです。相手と自分との間にギャップを感じたり、相手も自分も十分に向き合えていないと感じたりするときにどう振舞うかが問われます。だから、自分の価値観に自覚的であるべきなのです。

わが家の猫の主治医は、自分の価値観も話してくれます。彼も数年前に愛猫ががんで亡くなりました。最後はどんなに手を尽くしても、つらい闘病をさせているだけではないかと思い、ただやすらかに見送ることにしたそうです。そう伝えることが、もしかしたら私たちの判断にバイアスを与えるかもしれないですよね。つまり、まだ打てる手があるかもしれない。そう考えるとこの行為自体にも是非があるでしょう。とはいえ、完璧な治療などないし、私たちは全知全能ではない。そうであるならば、何が私たちと愛猫の関係性にとって幸せなのか。普段考えないであろうことに光を当てようとする主治医の態度は、私にとってはとても誠実なものに思えました。

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