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【読書メモ】チャレンジング・トム-日本女子バスケを東京五輪銀メダルに導いた魔法の言葉
あの夏から1年が経とうしているのですね。
著者のトム・ホーバスさんは、女子バスケットボール日本代表、アカツキファイブのヘッドコーチを務めた方です。TOKYO2020の銀メダルの快挙は、記憶に新しいところです。現在は、男子の日本チームのヘッドコーチとして、パリ五輪を目指しています。
トム・ホーバスさんといえば…
「何やってるんですかー!」
ですね。流腸かつ熱い、それでいて妙に丁寧な日本語による叱咤激励が話題になっていました。
私もテレビでその様子を見た時のインパクトが強くて、思わずnoteに書いてしまったほどです。
そのホーバスさんが著書で何を語っているのだろうと手に取りました。
ヘッドダウンしないでください
ページをめくると、熱くてポジティブな言葉にあふれています。コーチが発揮すべきリーダーシップはこういうものであるべきだと思いました。ロジックもあるし、パッションにも満ちている。
勇気をいただいたのは、何があっても「ヘッドダウンしない」という言葉です。ヘッドダウンとは、文字通り頭を下げることです。「なにやってるんですかー!」とトムさんに怒られて下を向くようではダメだといいます。厳しいですね。しかし、トムさんにしてみれば「あなたならできるでしょう?」という思いを込めて叱咤激励しているわけです。そこで下を向いてしまっては、状況は好転しない。それは、自分にとってもチームにとっても良い結果になりません。
ヘッドダウンは、選手だけでなく、コーチ自身にも求められるとトムさんは言います。
それは選手に限ったことではありません。我々コーチ陣も同じです。ヘッドコーチの私がヘッドダウンしたら、選手たちも「ああ、やっぱり渡嘉敷選手がいなければダメなのか……終わった」と思ってしまうでしょう。コーチがそんなメッセージを口にすることはもちろん、選手たちにそう感じさせることもよくありません。
どんなに悪い状況に陥ったときでも、組織として目標に向かう以上、その状況における前向きな答えが必要です。「渡嘉敷が出られない? OK、じゃあ、こうしてみよう!」。コーチが自信を持って次のステップを示すと周囲はついてくるものです。
日本チームは、チームの大黒柱である渡嘉敷来夢選手がケガで離脱するというアクシデントに見舞われます。そんなときでもトムさんはヘッドダウンせずに前向きな姿勢を保ち、状況にアジャストしていったのです。
生きていればチャンスはある
「アジャストする」という言葉は何度もこの本で出てきます。これは、トムさんの「生きていればチャンスはある」という信念に基づくものです。
さまざまな状況をよく見て、何をすることが最善なのかを考える。それにアジャストしていく。これは人生においても同じことが言えるのではないでしょうか。自分を捨てるのではありません。自分の心を自分の中に置きつつアジャストしていく。それが変化していく情勢の中で生き残る道だと思います。
生きていればチャンスはあります。
渡嘉敷選手の離脱は、トムさんにとっても大きなショックでした。しかし、そこで下を向いてしまっては、チームの士気が下がります。そして、何よりもトムさんは、他の選手のことも信じていました。だから、この状況にアジャストすることができました。
状況が変わっても、目指す目標は変わらない。ならば、やり方を変えればよい。どんな状況にあっても、自分とチームを信じることの大切さを教えてくれる逸話です。
失敗をプラスに変えるのがコーチ、指導者の役割
スポーツにも、ビジネスにも、人生にも紆余曲折があります。でも、生きていればチャンスはある。そのように選手を鼓舞していくことがコーチの役割です。
コーチ=導く人は、たとえ落ち込むことがあっても、それを引きずってはいけません。常に前を向き、落ち込んだ原因から学ぶことで、次の失敗を防ぎます。そうすることで目的地まで大切なものを運ぶ、自分の役割、すなわち結果が残せるのです。
コンサルタントとして、いろんな会社を見てきていますが、評価される人は失敗しない人ではありません。そもそも失敗しない人などこの世にいません。いるとすれば、それはチャレンジをしない人です。
評価される人は、失敗から学ぶ人です。苦境にあっても、自分を失わずにヘッドアップしてチャレンジする人です。そして、状況にアジャストする様子を見て、周囲はその成長に感謝します。
その大切さをいかに伝えるか。
指導者は、自らプレーをするわけではありません。ゆえに結果を出すために、懸命に指導や指示をします。もちろん、必要な指導や指示はするべきです。しかし、それだけでは限界があります。なぜなら、彼ら彼女らのチャレンジがなければ、チームの成長は止まってしまうからです。
指導ではなく、自ら実践することです。コーチも、チームの一員として、目標を目指してアジャストすることが求められます。誰かの失敗をチームの失敗と捉え、コーチ自らが学び、前に進もうとすることが指導者の役割だとトムさんは説いているのです。
トムさんから学ぶべきは言葉ではなく心
コーチによってアプローチの仕方は様々でしょう。ただ、「どんなに大変なことがあってもこのチームなら必ずプラスに変えられる」。そんな前向きな気持ちを選手に与えられることが良いコーチに共通することだと思います。
トムさんの場合は、「妙に丁寧な日本語」で注目されていますが、日本語として間違っていることも多々あるようです。それでも気持ちが伝わり、選手が前を向くことができる。本書のタイトルは「魔法の言葉」ですが、トムさんが持っているのは魔法でも、綺麗な言葉でもありません。「生きていればチャンスがある」という信念を実践しつづける熱い心なのだと思います。
そして、そんな自分でいられるコーチという職業に感謝していることが伝わってきます。私もそういう仕事をしていきたいと思います。