熾火のような理念をつくる「弾み車」の概念
わが家は薪ストーブを使ってます。
寒くなってきて、今シーズン初めて薪ストーブをつけました。火をおこす際には、新聞などから始めて、小枝や小さな薪などに引火させていきます。徐々に入れる薪を大きくして行って、ストーブ内で太い薪が数本燃えるようになればもう大丈夫。ここまで大体30分くらいです。さらに1時間もすると、炎が収まり、熾火(おきび)に変わっていきます。熾火は燃えさかる炎よりも温度が低いと思われがちですが、実は最も高温の状態です。この状態になるとじんわりとした暖かさが体を包んでいきます。一番、薪ストーブの趣を感じる状態です。
熾火を育てるようにマネジメントをする
この状態に育てる時間が好きです。薪ストーブの良さは、独特の暖かさだけでなく、この時間の流れにあるのだと思います。毎回、同じように火を起こしていきますが、条件は少しずつ異なります。火の状態と共に、ストーブについている温度計を見ながら調整していくのです。エアコンのように温度を設定すれば、あとは機械がやってくれるわけではないところに愛着を感じます。
これは、マネジメントにも通じることですね。目指す姿は常に変わらないが、外部環境や内部環境に応じてやり方を変える必要があります。そうやって試行錯誤した結果、熾火のような成果が得られます。そこで得られた成果は、売上げや利益のことではありません。わたしたちがビジネスを継続するための理念や哲学を確かにすることです。そうした軸があることで、新しいメンバーが加わったり、外部環境に変化があったりしても、それらを取り込み、火をつけ、新たな熾火を作っていくことができます。
理念を浸透させるのではなく「弾み車」を社員とともに回すことで理念を育てていく
似た話として、ビジョナリーカンパニー2に「弾み車」という概念があります。
飛躍を遂げた企業は、単純明快な真実を知っている。つねに改善を続け、業績を伸ばしつづけている事実に、きわめて大きな力があることを知っているのだ。当初はいかに小幅なものであっても、目に見える成果を指摘し、これまでの段階が全体のなかでどのような位置を占めているかを示し、全体的な概念が役立つことを示す。このようにして、勢いがついてきたことを確認でき、感じられるようにすれば、熱意をもって参加する人が増えるようになる。
出典:『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』 ジムコリンズ
改善は単に仕事の精度を高めたり、効率を高めたりするだけではありません。その成果によって、ますます事業へ主体的に参画する社員が増えていくのです。そのために大切なことは、取組みの成果や勢いを感じられるようにしていくことです。つまり、成果をフィードバックすることで、お客様に喜んでいただく商品・サービスを磨くことに集中させることが大切なのです。
上記が弾み車、すなわち好循環ですが、逆の「悪循環」についても説明があります。
考え抜かれた静かな過程によって何が必要なのかを認識しそれを着実に実行していくのではなく、新しい方針を頻繁に打ち立て、それも「従業員の動機付け」のために派手に発表し宣伝することが多いが、やがて新方針でも好業績を持続できないことが分かる。決定的な行動、壮大な計画、画期的な技術革新、魔法の瞬間など、苦しい準備段階を飛び越し、突破段階に一気に進む方法を探し求めている。弾み車を押しはじめても、すぐにそれをやめて方針を変え、逆の方向に押しはじめる。そしてすぐにそれをやめて方針を変え、また逆の方向に押しはじめる。右往左往を繰り返し、持続的な勢いを作りだせないまま、われわれが「悪循環」と呼ぶ状態に陥っていく。
出典:『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』 ジムコリンズ
うまく行かなくなると、次々へと施策を打っていくわけですね。それ自体は悪くありませんが、そこに一貫性がないと、いくら口で理念やビジョンを語ってもそれはお飾りになってしまいます。
企業には、理念の浸透が求められます。ただし、それ自体が目的なのではありません。変化を続ける社会の中で、どのようにすれば、自社の強みを活かしてお客様を喜ばせることができるかを考え、それを実行に移した結果を社員が理念として実感するのです。
理念を浸透しようとするのではなく、熾火のような理念を育てることが経営の目指すことなのだと思います。
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