【読書メモ】ユーザーの「心の声」を聴く技術 ~ユーザー調査に潜む50の落とし穴とその対策
つくれば売れる時代ではなくなったと言われて久しいですね。ユーザーが本当に望んでいるものは何かを探ることがますます求められています。ユーザー自身も何が欲しいのか、自分の心の声には気づいていません。そもそも、自分のことをよく分かっている人はいません。分かっているつもりでも何かしら歪みや思い込みがあるものです。
本書は、その様な人間の認知と向き合って商品・サービスの質を高めていくユーザー調査の実践的な「虎の巻」です。
印象に残ったことをひとつあげるとすれば
本書は、ユーザー調査の虎の巻として、本棚に置いておきたい本です。調査の入り口から出口までのすべてが書かれています。いずれの内容も著者の奥泉さんの経験と認知科学をベースとした知見に基づいて書かれています。Tipsも多く、実践にそのまま活かせる内容です。
どこから読んでも役に立つのですが、「はじめに」をじっくり読むことをお勧めします。わたしは、以下の一節に奥泉さんの思いを強く感じました。
調査を依頼する人、それを請けて調査を実施する人、調査の結果を受け取って次のアクションを起こす人、その他もろもろとの兼ね合いも考えて大きな意思決定を下す人など、ユーザー調査にはたくさんの人がかかわります。しかし立場はどうあれ、ユーザーが意識していなかったり、言葉にできなかったりする 「心の声」に耳を傾けようとする前のめりの姿勢は共通しているはずです。そしてその声をしっかり聞こえるようにするには、人の認知の仕組みや歪みを知り、ユーザー調査のさまざまなタイミングでそれらに意識を向け、自分自身の認知の歪みを修正したり、相手に合わせて調整したりしながら進むことが肝要です。そうやって軌道修正しながら、質の高いユーザー調査を行い、ものづくりに生かそうとする人たちすべてにとっての虎の巻を目指して書き上げました。
「虎の巻」というとそこに正解が書かれていそうですが、そうではありません。実践を通じて学び、自分自身を軌道修正しながら質を高めていく、その方法論を伝えようとしているのだと思います。
そこからあれこれ考えたこと
緊急事態宣言を受けて、各地の人出がどうなっているかニュースで流れます。わたし達の行動データは、各段に種類・量・精度が高まっています。加えて、これらを分析するツールも進化しています。また、詳しい考察を行って発信してくれる人もたくさんいます。
このようにテクノロジーの進化もあり、ユーザーのことを知るためのデータは増え続けています。これらを商品・サービスの開発に生かしたいところですが、必ずしもうまく進みません。一番の大きな落とし穴は、わたし達が「分かった気になりたがる」ことにあります。
この落とし穴へのハマり方は、いくつかあります。浅いところでは、自分にとって都合の良いデータを見つけて安心するというものです。誰かが考察した内容をそのまま鵜呑みにして終わりとなります。一次情報に触れないままでは「心の声」を聴くことはできません。
深いところでは、調査結果に一喜一憂して終わりというものです。本書の中でも50番目の落とし穴に「『調査の意味がなかった』で終わってしまう」というものがあります。調査自体には、常に意味があるはずです。「ここまでしか分からなかった」というのも大事な結果です。逆に納得が得られる結果だったとしても、「分かったこと」によって、次の「分からない」が出てくるはずです。大切なのは、ユーザーだけではなく、自分たちの心の声にも耳を傾けることだと思います。
ここのところ、データ活用人材やその育成について考えています。「分かった気になりたがる」自分たちを受け入れて、ユーザーから学ぼうとする態度が一番に求められるコンピテンシーのように思います。