志を持って日々の仕事を工夫することで組織能力が育ち、独自の価値をもつ商品・サービスを生んでいく
前回のnoteで、こんなことを書きました。
“何事も見えているのは、氷山の一角。その水面下を見ようとすることが大切なのだと思います。このときお客様の水面下を知ろうとするのがマーケティング活動。そして、自社の水面下を知ろうとする、あるいは大きくしようとするのがイノベーションの探求なのではないかと思います。”
お客様の水面下を知ること、その無意識の欲求を見つけるのが顧客インサイトです。ただ、それに応える商品・サービスがないと意味がありません。そして、その商品・サービスが自分たちの独自の価値を持っていることが大切です。独自の価値で、喜ぶ人を増やしていくのが企業の存在価値です。
そして、こうした独自の価値をバリュープロポジション(価値提案)と言います。
図に書くとこんな感じですね。
この価値を生み出すためには具体的な商品・サービスに落とし込むことが必要です。抽象論ではなく、実際に作りこんでいくわけです。この時、QPSの組み合わせを考えること大切です。QPSとは、Quality・Price・Serviceの頭文字をとったものです。最後のServiceがちょっと分かりにくいかもしれません。商品そのもの以外の部分で勝負するということですね。たとえば、「山奥に一軒しかないコンビニ」なんかがそれです。このとき、「おお、そこまでやるか」「ウチではとても無理」という風に競合に思わせたら勝ちです。
実際、セブンイレブンは、こんなことをやっています。
ちょっと長めですが、後半の部分を引用します。
20年12月上旬、埼玉県南西部の飯能市から、秩父市方面へ向かう峠道にある吾野公民館(飯能市)を訪れた。セブンイレブンのキャッチフレーズとオリジナルの音楽が大音量で流れると、スピーカーを載せた箱形の軽トラックに徐々に買い物客が集まってきた。多くが周辺に住むシニア層だ。
公民館から20キロメートル先の日高下川崎店が食料品や日用雑貨など150種類を積み、移動販売車として営業している。両手の袋いっぱいに商品を購入した女性客は「何日か分のごはんが買えてすごく便利。近くにいても会わなかった顔見知りと話し、元気か確認し合える」と話す。
この地域では10年前に公民館そばのコンビニが閉店した。最寄りの小売店まで10キロメートルある。バス路線は廃止された。社会福祉協議会による相乗りの送迎車の運行も、コロナ下の密を避けるために中断。状況を耳にしたオーナーの水間慎一郎さんが同協議会と連携し、協力を申し出た。
停車時間は約30分。その後、トラックはさらに山奥へ進む。個人宅の駐車場も借りながら、昼間の5時間をかけて計4カ所を回る。
オーナーの有志が運営する移動販売車は全国に100台強ある。ただ多くが収益源にはなっていない。チルド商品を運ぶには温度管理できる設備が必要で、店舗外の人件費もかかる。セブン本部も支援するが、1日1台の平均売上高は約4万~5万円程度という。
水間さんは「慈善活動ではない」と言い切る。少子高齢化が進み、経済が拡大均衡でなくなってコンビニの位置づけも変わる。「24時間営業が常識でなくなる将来、日中の事業の裾野を広げなくてはいけない」(水間さん)。セブン本部も「いずれは直面する課題。買い物が困難な場所でこそセブンが挑戦していくべきだ」(藤田氏)とする。
高齢化が進む地方での出張販売。もしかしたら利用する皆さんも我慢して過ごしていたかもしれません。不便だけど仕方がないかな、と。そこへセブンイレブンがやってくる。顔見知りのみなさんがそこで交流もできる。これは気づいていないニーズだったかもしれません。
決して収益源になっていないけど、慈善活動のつもりはない。セブンが挑戦していくべき場所と捉えてビジネスを展開しようとしています。
私たちは
いかなる時代にもお店と共に
あまねく地域社会の利便性を追求し続け
毎日の豊かな暮らしを実現する
これは、セブンイレブンの企業理念です。こうした理念のもと、社会の変化を捉えながら、自分たちができること、すべきことを具体的なサービスとして形にしている、ここが重要なところです。差別化というのは、新規性のあるアイディアがあるかどうかではないんですね。それを実現する他社にはない組織能力があるかどうか、だと思います。
もともと、日販で他のコンビニと大きく差をつけているセブンイレブン。品揃えや接客、クリンリネスと言ったコンビニの品質を高める行動が徹底されていると言われています。それは、どちらかと言えば、お客様からは見えない水面下の部分です。お客様に喜んでもらおうとする工夫を徹底することが、他のコンビニとの日販の違いを生んでいます。それと同時に、理念を実現するために創意工夫できる組織能力も育っているのです。
強い会社には、組織能力を育てる弾み車があります。この弾み車を見出すことが経営者やわたし達コンサルタントに求められることです。特に、AIが進化していくなかで差別化を生むのはこういった部分でしょう。どこに出店したら収益性が高いかという分析は機械の方が速いし、得意です。確かに収益性は低いけど、そこにチャレンジするから価値がある、と発想ができるのは、志を持っている人間だけです。