10年後にこの1年を振り返ったら、どんな1年だったと言いたいですか?
「なんで10年後なんですか?」そう聞かれて少々戸惑いました。とある会社のリーダー層のみなさんと、10年後の姿を描こうというセッションをしていたときのことです。よく聞くと、質問の意図は、「そんな先のことは考えられない」ということでした。確かに変化の激しい時代です。先々のことを描いてもすぐに状況は変わってしまいます。
10年たっても変わらないことは何か
わたしは、直観的に「長いほど良い」と答えました。世の中が変わるのですから自社も変わります。10年後、今と違う姿になっているのは確かです。少なくともわたし達は歳をとります。10歳年取って、ただ死に近づくだけなんでしょうか。それで良いという人もいるでしょう。ただ、わたしはそういう歳の重ね方をしたくありません。
こういう時に問うのは「10年前何してました?」という問いです。10年前と言えば、震災がありました。当時、東京のオフィスにいたわたしは、茨城の実家に連絡をとろうと会社の固定電話の受話器を取りました。混んでいてつながりません。携帯もつながりません。その時、上司がテレホンカードをくれました。公衆電話の方がつながる可能性があるということでした。彼は、新潟出身で、中越大地震のときに電話がつながらないという経験をしていました。その時以来テレホンカードをずっと持っていたというのです。10年前でもテレホンカードは珍しくなっていました。いまでは公衆電話もほぼ見かけません。
このようにあらためて振返ってみると、わたし達を取り巻く環境は、10年で大きく変化します。一方、その長い時間の中でも変わらないことがあります。今の例であれば、家族を心配し、つながろうとする思いです。
大切なことのは、正確な未来を描くことではありません。必ず変わっていく世の中で、自社がどのような存在でありつづけたいかを描くことです。
ニトリはいま、2回目の30年計画の9年目
ニトリさんは「2回目の30年計画の9年目」です。
ニトリがまだ2店舗だった1972年、私は第1期「30カ年経営計画」を作り、「2002年までに100店舗に増やし、年間売上高を1000億円にする」という目標を社内外に宣言しました。これがニトリが最初に設定したビジョンです。
当時の売上高は1億6000万円ほどでした。実現不可能だと誰もが思ったことでしょう。しかし31年後の2003年に、1年遅れではありますが、これを達成しました。そのために私たちが行なってきたのが、「未来から逆算し、今日一日、すべきことを実行する」ということでした。
出典:『ニトリの働き方』似鳥昭雄
日々をコツコツと積み上げることは大切です。ただ、それがどこに向かっているのかを描くことも大切です。そうしたビジョンがない限り、すべては結果オーライ、成り行き任せとなります。「10年なんて描けない」のは、志が低いからです。
目標が高ければ高いほど、現実がなかなか追いついてこないのは確かです。しかし、その高い目標と現実を一致させることができれば、日本はもとより世界の人々に住まいの豊かさを提供するというロマンに近づくはずです。 大切なことは、とにかくビジョン達成に向かって前進することです。
出典:『ニトリの働き方』似鳥昭雄
一方で、「何で10年なんですか」と質問が出てしまうのは、経営者が十分にビジョンを伝えきれていないからです。
私自身、懸命になって「日本の暮らしを変えるんだ」と言い続けても、最初のころの社員たちの反応は鈍いものでした。なかなか考えが伝わらず、信頼を得られないまま退職してしまう人もおり、一人で空回りしているようでした。
考えをうまく共有できなかったのは、私自身が具体的なビジョンを打ち出せず、行動で示すことができていなかったせいです。
出典:『ニトリの働き方』似鳥昭雄
人それぞれ考え方も価値観も違います。その中で力を出し合って前進するには、ビジョンを繰り返し伝えていかなくてはなりません。わが社が価値のある存在としてあり続ける理由を語らなくてはなりません。そのために描くストーリーは、やはり長いほど良いでしょう。
10年後にこの1年を振り返ったら、どんな一年だったと言いたいですか
そんなビジョンを語り、志を共有すると、こんな問いも有効になります。
「10年後にこの1年を振り返ったら、どんな一年だったと言いたいですか」
実際、わたし達自身の会社でチームの戦略を考える際にこの問いが機能しました。今年度、いくつか施策があるのですが、それらを何のためにやるのか、その大義が明確になりました。
2020年コロナでわたし達は停滞を余儀なくされました。2021年に入り、ワクチン接種が進み始めています。いつかは、この状況が終わるのだと思います。そして、10年後はどうなっているのでしょうか。そのとき、自社はどんな存在なのでしょうか。そして、この1年はどのような1年として語られるのでしょうか。必ず変わる未来に向けて、今年やらなきゃならないことは何でしょうか。
4月、スタートの時期ですね。だいぶ、経ってしまいましたが、遠くへまなざしを向けて今やっていることの意義を考えたいところです。