第61話 「相性診断アプリ」(後編)
レストランでの会話は盛り上がり、
食事が済むまでは全てが順調だった。
だが、カタラーナというプリンのようなデザートの写真を楽しそうに何枚か撮ったあと、
彼女はついにあの話題を口に出した。
つまり、相性診断アプリの話題だ。
「試してみましょうよー」
スプーンを咥えた彼女は、自分のスマホを揺らして見せた。
クマやウサギのストラップが一緒になって揺れる。
「こんなもので、本当に相性が判定できるなんて、信用してないけどね…」
そう言って、ため息を一つ付いた私は、人差し指を彼女のスマホの画面に乗せた。
彼女も同じように指を乗せる。
すると、二人の指先からお互いに対して、赤い線が伸び、重なったタイミングで、画面全体が白く光った。
一瞬置いて、画面に表示されたのは「S判定」という文字と、
小さな二人のエンジェルが祝福のラッパを吹き鳴らすアニメーションだった。
「やった」
そう小さく声に出し、私はビールを一口飲み込んだ。
私は彼女を騙そうとしていなかった。
詐欺師ではなく、一人の男として彼女に接していた。
多分、それが良かったのだろう。
ホントにこのアプリの精度は素晴らしい。
私は、テンション高めに切り出した。
「初めてですよ。S判定ってこんなアニメーションが……」
しかし、彼女は私の言葉を冷静に遮った。
「山村さんは、何の仕事をなさっているんでしたっけ?」
私は驚いて顔を上げた。
それまでのふんわりと優しげな雰囲気と打って変わり、
彼女の表情はどこか険しく見えた。
「家具インテリアの輸入業ですが…」
咄嗟に、言い慣れた嘘をついてしまった。
彼女の視線がより険しくなる。
「…失礼ですが、それは本当ですか?」
「……ど、どうしたんですか?綾さん」
彼女は持っていたスプーンをカタラーナにザクッと突き刺すと、
一拍置いてから口を開いた。
「気を悪くしないで欲しいんですが、以前にも同じことがあったんです。私の、先輩の話なのですが……」
彼女は小さなピンクベージュのハンドバックから、不釣り合いな黒い革の手帳を取り出して見せた。
「これが私の仕事なんです」
私は唾を飲み込んだ。
エンジェルは、まだラッパを吹き鳴らしている。
なるほど。
ホントにこのアプリの精度は素晴らしい。
確かに相性バッチリだ。
ここから先は
第3集「意味が分かると怖い話」
30話の意味怖が収録されています。 各話は独立した短編のお話です。 お話はインターネットからのコピーではなく、オリジナルの意味怖です。 各…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?