第61話 「相性診断アプリ」(前編)
最近人気の相性診断アプリは恐ろしい。
精度が異常に高いのだ。
若い男女は皆、このアプリを使って恋人を作っている。
困ったのは、占い師だ。
彼らの多くは仕事の鞍替えを余儀なくされるだろう。
……かく言う私も他人事ではなかった。
「やっぱり、お金は用意できません。あの……ごめんなさい」
彼女はそう言うと、そそくさと店をあとにした。
一人残されたカフェの店内で、私は「E判定」と表示されたスマホの画面を見てうなだれていた。
私は結婚詐欺師だった。
同業者の中では少しは名の知れた存在だったが、このアプリが世に広まってからは連敗続きだった。
このアプリの下す判定は正しい。
私がターゲットにした女性との相性は、すべからく最低ランクの「E判定」になるのだ。
どんなロジックになっているかは、全く検討がつかないが、詐欺師と相性が良い女性なんて、この世に存在しないだろう。
急に予定がなくなり、何かで時間を潰す必要ができた私は、
カフェを出ると近くの書店に立ち寄った。
何気なく書棚に視線を向け、自分の好きな作家の本に手を伸ばした。
そのとき、私の手の甲に、
女性の手が重なった。
「あっ、ごめんなさい」
声のする方に顔を向けた私は、そのまま固まった。
舌先三寸で、女性を手玉に取ることを生業としてきた私だったが、一瞬、頭が真っ白になってしまったのだ。
「こんなことって、ホントにあるんですね」
そう言って屈託のない笑顔を見せたのは、とても可愛いらしい女性だった。
ピンクゴールドのイヤリングがキラキラと揺れる。
「……そ、そうですね」
なんてつまらない返事をしたものだと自分では思ったが、彼女は意に返さずに、
「夏目乱歩、好きなんですか?」
と続けた。
重ねた手の下にあった本の作者だ。
私は少し間を取ると、
「……そ、そうですね」
と言った。
連続で、面白みのない返事をしてしまった私だったが、
このあと、なんとか彼女を食事に誘うことには成功できた。
少女マンガのテンプレートのような、
運命の出会いというものに助けられたのだと思う。
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第3集「意味が分かると怖い話」
30話の意味怖が収録されています。 各話は独立した短編のお話です。 お話はインターネットからのコピーではなく、オリジナルの意味怖です。 各…
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