第１５５話「目が気になる」

私には悩みがありました。
積年の悩みでした。

でも、今は解消されました。
半年前に、遺伝子治療を受けたんです。

DNAの塩基配列を書き換えることによって、遺伝子レベルで身体の問題部位を再設計して改善する。
そんな夢の治療です。

最先端の分子生物学の影響範囲は、とうに神の領域を侵犯していると言えるでしょうね。

半年前のことです。
私はこの分野の権威である――東方錦太郎博士にお会いする幸運に恵まれました。

場所は、研究所内にある博士の個室。
本や玩具、それから彼の脱ぎ散らかした衣服が未分類に散乱する手狭な部屋でした。

「遺伝子治療に不可能はないよ。どんなことだって可能なんだ」