昔見た夢を元にSS作る
僕の趣味は、休日に散歩すること。
今日も爽やかな空気を胸いっぱいに吸って吐いたら、お隣さんちのコロに挨拶して、向かいのおじいちゃんの大きなくしゃみを聞いた。今日も豪快だな。
今日は少し遠出してみようかな。なんて考えた僕は、いつもの道を外れ川の方へ。せせらぎの囁きが近づいてくる。橋を渡ろうと角を曲がったところ、それはいた。
少しだけ青みがかった黒色。大きな大きなそれは、川のこちら側からあちら側まで体をいっぱいに伸ばしていた。
体であると気づけたのは、それの真ん中あたりに小さなヒレがついていたからだ。よく見ると、体に隠れた向こう側には狭そうに曲げられながら、塞き止められて溜まってしまった水と空気をゆったりと混ぜる尾びれがある。
ということは、こちら側にあるのは。
その時、目の前の黒が開いた。
真一文字に切れ目が入り、ゆっくり、大きく、入れとばかりにくぱりと開かれた口。大きな生き物が目の前で口を開けたというのに、不思議と僕の足は前へと踏み出していた。
海の匂いがする暗いところ、なんだか暖かくて落ち着くその場所へ、憧憬さえ覚えながらかえろうと、
ーーーーーー……
「…あ、」
はっと気づいて、慌てて立ち止まる。
目の前に広がった深淵は幻のように掻き消え、代わりにいつもの橋が伸びている。川だって今日も変わらずさらさらと流れている。
…さっきのは夢だったんだろうか。でもあの大きな体も海の匂いも、呼び掛けるようなあの声だって夢とは思えない。そもそも、あの生き物はなんだ?鯨?…本当に?
わけの分からない生き物が、確かに自分を食べようとした。何より、それが未だに嫌とは思えないことに気がついてしまった僕は今更ぞわりと背中が泡立ち、嫌な汗が滲み始めた。休日の朝なのになんでこんな目に。
僕は散歩を切り上げることにした。橋から少し離れて振り返る。もちろん、そこにあったのは朝の日差しで照らされる橋と、その少し手前に揺らぐ逃げ水だけだった。
夢の内容:近所の川に鯨が詰まってた