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都内某所、ある小春日和の1日、太郎君は久々の休み、近所を散歩していた。
彼の散歩は少し変わっている。散歩とは言え、しばらく歩いているうちに、誰しも大体の方向、進みたい方角というのができてきてしまうものだ。しかし彼の場合、前にぐんぐん早歩きで進み、途中で引き返したり、気まぐれで裏路地に入っていったりと言うことを全くしなかった。
とにかくまっすぐ進む、ときにはそれで人気のない獣道、酷い道、酷道に出てしまったりするが、彼は全く頓着しなかった。むしろ太郎君としてはそのような誰も足を踏み入れていないような道の方が、歩いていて楽しいのであった。
そして小春日和に戻る。例によって彼は戻らず曲がらず、ひたすらまっすぐ歩いていた。すると気づけば小さな神社へ足を踏み入れていた。草木の手入れを長い間していないのだろうか、あたりは仄暗く、少し寒くて、湿った土の匂いが鼻をついた。
太郎君は珍しく、そこで立ち止まることにした。よく言うのは鳥居の真ん中は神様が通る道なので、人間はその横を通らなければならないというのがあるが、彼はそういう屁理屈が気に食わなかったから、むしろ彼は信仰心さえあれば、そのような細々とした動作については、きっと神様も許してくれるだろう、逆に神様のご機嫌をいつでも伺って、ゴマをするような態度は態度こそが罰当たりだと思って、彼はお辞儀も省略した。
そのまままっすぐ進んで、太郎君は賽銭箱に近づいた。よく言うのは「ご縁がありますように」の願をかけて、ご縁玉を入れたり、「縁が遠くなる」のもじりを下げて10円玉を入れなかったりするが、これまた太郎君はひねくれていたので、金は金である、10円は5円の倍だ、100円は10円の倍だ、1000円は100円の10倍だ、と言うことで彼はなけなしの、しわくちゃの財布に入ったこれまたしわくちゃの1000円札を取り出して、賽銭箱に少し強めに叩きつけた。彼は一連の自分の態度を全く省みようともしなかった。
すると社の裏から、小さな女の子が音もなく現れた。太郎君は彼女を眺め、彼女は太郎君を睨みつけた。女の子は太郎君に話しかけた。
曰く、神社では礼儀正しく振る舞わなければ、きっと神様から罰が当たるだろう、人には良心ということがあって、それにあえて背くよりも、自然とそれに従うほうがみんな幸せになるのだから、あなたのように不躾な態度をとるのはよろしくない、と。
太郎君は彼女を眺めていた。すると突然太郎君は大声を出して笑い始めた。彼の笑い声はあたりの草木を鳴らした。女の子は怯えたように、しかしまだ彼を咎めようとする視線は生きていた。太郎君は笑い続けた。彼の声に地中の水分は蒸発するばかりであった。女の子はついに耐えきれなくなって、太郎君に呆れと軽蔑を込めた笑みを向けた。すると突然太郎君は無表情に変わった。彼は踵を返して神社を後にした。例の早歩きで、彼は家に帰っていった。
「俺は今日、誰にも出会わなかった。神社に行ってお参りをした。俺は勝った。きっとその姿を神様は見ていただろう。だから俺にはいつか必ず幸運が訪れるはずだ」