ジャックは私です#5
死体が発見されたのは名古屋市の一軒家。ソファで昼寝をしている所を殺害されたと見られている。死因は失血。
黄緑色のソファを真っ赤に染めるほど大量の血を吐いていた。
Keep out のテープを乗り越えて、刑事の天野は現場に入っていった。
「お疲れ様です。天野さん。」警官が敬礼する。
「お疲れ様です。ところで状況は?」
「喉を内出血して口から大量に血を吐いたことによる失血が原因のようです。」
「なるほど。犯人の動向は割り出せたか?」
「それが意味不明ですよ・・・・・・・玄関と裏口の防犯カメラには犯人の姿はなし。窓もこじ開けられた形跡もなく、下足痕も検出できませんでした。」
「怪事件だな・・・・」
「あ、そういえば森岡検視官が後で来て欲しいって言ってましたよ。外のブルーテントにいます。」
「分かった。ありがとう。」
天野は外に出ていそいそしく働く警察官を横目にブルーテントの前で「森岡。呼んだかい。」といった。
森岡はテントから出てきてため息をついた。「ふぅ。ここに来たってことは詳しい死因を知りに来たってことだよな。」
「まあ、そういうことだ。」
「いいか?これちょっと良く分からなくてな。カミソリの刃の欠片が喉の付近で検出された。まず予め喉に突き刺しておいてそれが何らかの衝撃で抜けちまって、血液が溢れて失血したんだと思う。
落下状態で寝てたから血液も流れやすくなってたんだ。」
「おい、どういうことだよ。予め喉にカミソリの刃をさしておくって。」
「だから最初に断っておいただろう。ちょっと良く分からないって。恐らく犯人は医療関係の人間だな。」
「俺もそう思う。だけどどうやってバレずに刺すんだ?」
「病院か何かに行ってればこっそり仕込むことは可能だろうよ。まあそれにせよ動機がさっぱり分からんがな。両親から話は聞いたのか?」
「父親の証言だが来る途中書類で確認した。家から帰ってリビングに入ると血まみれのソファに気づいたらしい。娘の死体ほど衝撃的なものはなかったろうな。」
「あぁ。それは同感だ。」
「とりあえず今から最近病院に行ったかを聞いてくる。」
「そうしろ。」
天野は再び家の中に入る。最初入った時は父親はいなかったが別室で話をしているのだろうか。側にいた警官に「親父さんはいるか?」と訊いた。
「お父さんなら、さっきリビングに戻ってきましたよ。」
「ありがとう。」
リビングに入ると父親がいた。机に力なくもたれかかっている。優しく声をかけると父親は片手で目頭を押えながら「刑事さん・・・うちの娘を殺した犯人を必ず捕まえてください・・・お願いします・・・・」と懇願してきた。
「落ち着いてください。」
「麻里奈はこれからだった・・・まだまだやるべきことも残っていたはずなのに・・・・それがこんな目に・・・・」そういうとその場に泣き崩れた。最後の方の言葉はクレッシェンドしたように強くなっていた。
「落ち着いてください。少し教えてほしいことがあります。」
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