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ハーバートを継ぐ者。#3

 ローゼンバーグが動揺の声を漏らすより早く、男の握ったブローニングM1910の引き金が引かれた。ローゼンバーグは轟音と共にその弾丸を頭に受けて絶命した。

「今だ!!!!」男がボールペンをノックする。

左方で巨大な破裂音が響いたと思ったら息吐く間すらなく、コンクリートの瓦礫が崩れ落ちる音と囚人達の悲鳴が混濁した。野原や土に軽く火がついた。男達は屈んだ体勢を元に戻すと二手に分かれた。一手は刑務所の中へ、一手は車の側へ———

 刑務所が崩壊しようかという状況においても壁にもたれて鼻歌を歌うほどの余裕を貫いている男はマイケル・デリンジャーに他ならなかった。爆発音が轟き足元が傾いて壁が全壊したことを確認すると、ベッドの上に登って天井の埃を払うと天井裏へと繋がる正四角形の戸を上げて横にずらし、中を弄った。

茶色い埃を纏う金属をこちらへ引き寄せて取り出す。それは縄梯子だった。隣の独房の老人と警官から盗んだタバコで交換した物だった。

隣の独房の老人がすたすたと歩いてきて格子越しに話しかける。デリンジャーと同じように翳りのある目つきで、「行くのかい?」と不気味にいった。

「あぁ。行くよ。あんたは当たり前のように牢屋から出てるな。」デリンジャーは答えた。

老人は口元を緩めて「三子の魂百までって奴かな‥‥いくつになってもピッキングの腕は衰えんよ‥‥‥望むのならば大統領の寝室にも入れてやるぜ?」余裕たっぷりにいって見せた。

「あんたは逃げないのかい?長老?」デリンジャーは問う。

「あぁ‥‥‥外に出たところで俺はピッキングをやめられねぇ。ここに戻ってくるだけさ‥‥‥それに弟子はいるからな‥‥‥その縄梯子ちゃんと有効活用してくれよ‥‥‥」

「色々ありがとう。長老。悪魔の加護あれ‥‥‥」

「ふんっ‥‥‥‥悪魔の加護あれ‥‥‥‥」

デリンジャーは友人との最後の会話を交わして縄梯子のフックを、剥き出しの瓦礫に引っ掛けて長い梯子を放り投げた。

遥か下に下に、踊り舞う梯子の揺れが収まったのを確認してから慎重に梯子に手をかけた。老人に向かって二本指をこめかみに当てて角度をつけて見せると返答を待たずに梯子を降りていった。

 

 ガ——ン!!!!!!

ガ——ン!!!!

血で血を洗うような生臭い銃撃戦が繰り広げられている中、圧倒的な不意打ちを食らった刑務所関係者達は次々とディリンジャー達の弾丸に倒れていった。

「おい。もう退いてきたぞ。」顔に飛び散った血を銃のグリップで拭いながら一味の、コースト・ペーシウンが呟いた。

「そうだな。見せしめに後三人は殺しておこう」ヘイデン・マクスウェルは何処からか持ち出したか分からないグロック17を警官に向けて続け様に発砲する。

比較的若い警官がうめき声を上げてその場に崩れ落ちると左足首が脇腹の辺りに転がり、胸の辺りに三つの穴が空いている。それが血の海に浮かんでいる。十二体の死体の中で一番惨たらしい死体だった。

ネクタイを緩めたワリ=カリ・バードがシルバーのワルサーPPKを二発発砲する。

———カシャ——ン!!!!

警官の持つポリスピストルが床に落ちる音が響いた。三人のディリンジャー達は勝利を確信した。

「うがっ!!!」ありきたりな叫び声が上がったかと思うと、肉片と血の上に倒れてブチュッ!!という下品な音が轟いた。

「さぁ。行くぞ。こんだけ荒らして、しかも町から切り離されてるからしばらくの間は大丈夫だと思うがもたもたしてらんねぇ。」

「よし‥‥」

三人の悪辣な、まさに悪党達は脇のホルスターに銃を仕舞うと小走りに車の方へ走っていった。

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