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イベントレポ:「キム・ヨンス作品を語る」翻訳者座談会

この座談会は、K-BOOKフェスティバルの中で二つある有料イベントの一つとして行われた。

出席者はオ・ヨンアさん(『世界の果て、彼女』2014年、クオン)、きむ ふなさん(『ワンダーボーイ』2016年、クオン)、橋本智保さん(『夜は歌う』『ぼくは幽霊作家です』ともに2020年、新泉社)、松岡雄太さん(『四月のミ、七月のソ』2021年、駿河台出版社)、崔真碩さん(『ニューヨーク製菓店』2021年11月刊行予定、クオン)という5人のキム・ヨンス作品の翻訳者たちだ。

司会はオ・ヨンアさん。まず、自己紹介を兼ねて各々が翻訳した本の紹介からスタートした。
きむふなさんはBTSのメンバーが紹介したという『ワンダーボーイ』について。韓国でYA向け雑誌に掲載されたもので、若者に読者層を広げたいと思った。また1980年代を違うアプローチで共有したいと思って訳した、と語った。

⇒ 『ワンダーボーイ』はコチラから

『夜は歌う』は名もない人たちの歌声に導かれて読んで訳し、『ぼくは幽霊作家です』は他人の声を借りて物語。個人の体に刻まれた歴史、記録されていない真実を追求する話者の声に耳をすまし、秘密を分け合っているような感覚があったという橋本さん。

⇒ 『夜は歌う』はコチラから

⇒ 『ぼくは幽霊作家です』はコチラから

『ニューヨーク製菓店』の訳者である崔さんは、友人なので距離感が難しいと言いながらも、編集者とともに訳を折り重ね、自信のある作品に仕上がったと語り、作家キム・ヨンスはいずれノーベル賞を受賞するだろうとも述べた。

⇒ 『ニューヨーク製菓店』はコチラから

松岡雄太さんは、2015年にキム・ヨンス作家が長崎滞在中に当時最新刊だった『四月のミ、七月のソ』を訳し、それを本人に手渡したところ「出版したら」と言われ出版に至ったという経緯を語ってくれた。

⇒ 『四月のミ、七月のソ』はコチラから

邦訳の最新刊『ニューヨーク製菓店』について語り合う中で、「死」がモチーフとしてあり、「死」のある「歴史」が描かれていること。詩人として登壇したキム・ヨンスの作品には「詩的」な言葉の美しさがあることから、「死」「史」「詩」というキーワードが浮かび上がった。また、訳出に苦労したところは?という質問に、「父の一言」と即座に答えた崔さん。父からの手紙の「どうせ人生とはそういうものではないか」という一節で、父親の愛情をどう表現するか悩んだという。

『ニューヨーク製菓店』は「きむふなセレクション韓国文学ショートショート」として出版されるが(12月3日刊行済)、このシリーズは韓国語と日本語と二つの言語から成っているので、韓国語の学習者、翻訳者を志している人にとってはこの上ない教材でもある。今回の表紙の色は「パンの少し焦げた部分の色」という情報も。方言についても、興味深い様々な意見が交わされた。

読書会が未開催の『ワンダーボーイ』について、訳者のきむふなさんは「作品の向こう側にものすごい読書量が見えた。天文学など調べ物が多かった」という。キム・ヨンス作家自身が、面倒くさいことをやるのが作家、と言っているのだから、訳者も読者も面倒くさがらずに努力したら見える風景もあるのだろう、とも。

言葉にできないものを言葉にしようとするから、翻訳作業はつらい。だが、著者とともにその尊いつらさを共有できることはステキな職業ではないか、との声に一同は大きく頷いた。キム・ヨンス作品は、1980年代というそれまでの価値観が一変し、前の時代の文学を引き継げなかった世代の人である作家が、内なる他者の声に耳をすますことから生まれてくるという声もあった。

司会に徹したオ・ヨンアさんが『世界の果て、彼女』について語る時間がなかったのが心残りだが、最後に今後出版される訳書の紹介があり、語り合った熱気をそのままに、キム・ヨンス作家自身が登壇する次のイベントにバトンを渡した。

⇒ 『世界の果て、彼女』はコチラから

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(レポート:田野倉佐和子)

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