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色眼鏡

わたしが学生時代にお世話になったのは、下に大家さんが住んでいて、2階に女性ばかりが間借りしているという昔ながらの下宿屋さんだった。

当時からそんな下宿は敬遠される向きがあったが、親がここなら絶対安心と思ったようだ。
というのも、70代の大家さんは息子は元横綱と大関、孫たちも後に横綱になった相撲界の大物一族で、有名人はスキャンダルを何よりも恐れるのでここなら絶対安心という勝手な思い込みだった。

家賃を階下に持っていくと、お茶を飲みながら、一緒に相撲中継を観たり、人参やゴボウ、レンコン、昆布などの具材が驚くほど大きいお煮しめや炊き込みご飯をお裾分けしてもらったり、故郷から送られてくる立派なりんごを頂いたりした。

あるとき、向かいの部屋のOLから面白いビデオがあるから一緒に見ない?と誘われ、大家さん宅のビデオデッキで、3人で鑑賞した。
最初は何だかわからなかったけれど、〇〇学会の大掛かりなイベントの模様を撮影したものだった。
一糸乱れぬマスゲームにただただ感心して見入った…というわけでもなく、これは勧誘か?と警戒信号が点滅したのを覚えている。

しかし、このOLさんはビデオデッキを持っていなかったというだけの話で、わたしがたまたま在室していたので誘われただけだった。


また別の日、同じく下宿していた大家さんのお孫さんと雑談していて、サークルが面白くないと、ちょっとした愚痴めいたことを漏らしたら、「楽しいところがあるからちょっと行ってみない?」と誘われてついて行ったのが、△△会の総本部。
東京タワーにほど近い目を引く建物だ。
大家さんのお孫さんはそこの青年部のリーダー的な存在だった。
車座に座って、自己紹介のようなことをさせられ、帰りに五千円ぐらいの御札を買わされそうになった。

来ている人はとてもいい人ばかりで、帰りの電車が一緒だった女性とは友だちになりたいと思ってしまったほどだ。

どうやって断ったか忘れてしまったけれど、その後二度と誘われることはなかった。

新興宗教というと、警戒心が湧いたり、信じている人を色眼鏡で見たりしてしまいがちだ。

ご近所にもこういう方がいて、毎朝決まって鉦の音などが聴こえてくる。
この方は人格者といっても良いほどの素晴らしい方だ。
ご自宅の前は勿論、向こう三軒両隣ぐらいの範囲を毎朝お掃除されている。

選挙前には訪ねてこられて、お願いしますと頭を下げられるので、わたしは断りもせず、応援していますと玉虫色の返事をする。

息子の部活が一緒だったお母様が、息子たちが卒業後、□□党から立候補し、ある市の市会議員になられていることを知り、度肝を抜かれた。
同じ選挙区の同級生宅にいきなり訪ねてこられたこともあるという。
このお母様はハキハキしていてリーダーシップもあり、今思えは政治家の素質がある人だったなと思う。

信仰は自由なので、信じている人を色眼鏡で見るようなことはしたくない。

しかし、壺を法外な値段で売りつけたり、献金献金で家庭が崩壊したり、人の心の弱い部分に付け込む怪しい宗教があることも事実だ。