たまたま新幹線で
新幹線に乗っていたら、新大阪からスーツ姿の男性4人組が賑やかに乗り込んで来て、わたしの後ろの席に座りました。
平日の昼下がり。
既にアルコールが入っているのか、声も大きく、否でも応でも話が丸々聞こえてきます。
車内販売でも、飲み物、おつまみを盛大に買って、更におしゃべりはヒートアップ。
皆さん独特のイントネーションがあり、デーブ大久保風。北関東出身の方かなと勝手に想像してしまいました。
話を聞く気はまったくなかったのですが、耳栓でもしない限り一部始終が勝手に耳に飛び込んできます。
どうやら皆さん東京の伝統校、T大のOBの方々で、年配のリーダー格の方は校友会の会長を狙っている様子。
そんな大物に目をかけられている若手の(20代と思われる)トシくんの歩んできた道のりに、他メンバーが相槌を打ったり、称賛したりしながら、話はどんどん熱を帯び……。
メンバーのほとんどの方が青森のご出身とわかり、トシくんの人誑し的なキャラクターのせいで、やることなすことすべて良い方向に人生の歯車が回り、大学に入学して始めたT国ホテルのアルバイトはコネで採用されたものの、宴会係として次第に頭角を表し、学生アルバイトながら、社員並みに重用され、2度ほど大きな失敗はあったけれど、未だに東京、大阪のT国ホテルで顔が利き、割引料金で利用できるのだとか。
これは本人の口から自慢気に語られるのではなく、すべて先輩たちが嬉しそうに話しているのです。
要所要所で本人が補足する程度。
その口ぶりは、変に謙遜もせず、明るくてのびのびとしています。
大学の関連施設の台湾に留学したり、山口県萩市の偉い先生に目をかけられてお世話になったり、旅行すれば特別のネットワークで、各地のOBの方の自宅や別荘に泊めてもらったり、大物の運転手のアルバイトをして荒稼ぎしたり、ゼミ旅行に行けば、一人だけ特別に教授に呼ばれてすき焼きをご馳走になってみたり、3年生で留学生に応募し、シアトルで学生生活を送り、帰国してみれば、周りは既に内定が出ていたので、多少焦りはしたものの、初志貫徹でハウスメーカー4社から内定を貰い、会社を選ぶにあたって、3年生と一緒にインターンをさせてくださいという願いを特別に受け入れてくれたところで、営業所長ともう1人の社員に付いて、実地で仕事のノウハウを学び……。
どんな場面でも妥協せず一所懸命。
明るいけれど軽率ではない、まったく嫌味のない実直な語り口。
朴訥ながら、なかなかの話上手で引き込まれます。
わたしもすっかり、顔も見えないトシくんの人柄に魅了されてしまいました。
先輩方は、トシくんのことが自慢で、可愛くて仕方がないといった感じです。
どうやらトシくんのお父様もOBと思われ、皆さんファミリーという雰囲気でした。
T大は、U翼的なイメージで、男の世界という校風ですが、皆さん是非我が子もこの学校に入学させたい、実際娘さんがチアガールをしているという方の話も。
愛校精神の塊。
トシくんが一番熱く語っていたのは、なぜハウスメーカーに就職したのかということ。
東日本大震災が起き、ニュースで第一報を聞いた時にはまったく他人事で、友達とカラオケに行こうとしたら停電になり、諦めて家で寝ていた。
数日後、お父さんとガソリンやいろいろな物資を積んで、現地に赴いた。
ビニール袋に入れられて転がっている遺体もたくさん見た。
そこで見聞きしたことが彼の
人生観を一変させた。
トシくん中2の時の出来事でした。
中学の卒業文集には、このように書いたそうです。
ハウスメーカーに入って、地震に強い家を建て、防災の仕事もしたい。
大震災によって、将来の夢がはっきりと志に変わったと語っていました。
これは断じて盗み聞きではありません。
あまりに声が大きく、お酒も入っていたので、マスクはしているのだろうかと、そればかりが気掛かりでした。