婉曲な表現をするとき
江戸川乱歩の短編を読んでいたら、
登場人物の女性の描写で
ご面相は余り振るわず
という表現があった。
(『一枚の切符』より)
容姿に恵まれないということを
不美人とか、不細工とか、もっと直截的なことばで表現することもあるけれど、それでは身も蓋もない。
言った方は軽い気持ちでも、
言われた方は一生忘れないという場合もある。
乱歩先生には、ちょっとした思い遣りを感じる。
古くさい店だなと思っても
レトロな雰囲気ですねと言おう。
ガラクタなんて言わないで。
骨董的価値がありますね。
思い出がいっぱい詰まっていますね。そう言って欲しい。
丸々と太った赤ちゃんはとてもかわいい。
でも、ストレートに伝えるよりは、
体格がいいですね。
お元気そうな赤ちゃんですね。
そんなふうに言えばお母さんも
笑顔になる。
赤ちゃんの性別を知りたいときには
最初に
女のお子さんですか?
と質問してみる。
女の子ならそれでよし。
男の子なら、
あんまり可愛いので女の子かと思いました、といえばいいらしい。
これは昔から割によく聞く話。
女の子が男の子より可愛いとは限らないけどね。
グルメリポーターの人が
正直ビミョーな味だな
と思ったときには、
わぁー、初めての味です!
と感想を述べるという。
何事も多角的に見ること。
いいところを見つけること。
相手の気持ちになること。
婉曲な表現は人と人との緩衝材。
でも、本当は
思ったことを素直に口に出せる
無邪気な人が羨ましい。