常連さん
常連さん……
その言葉の響きに一種の憧れを抱くけれど、自分のような内向きな性格では、常連さんになるのは至難の業だ。
いや、未だ嘗て常連さんになりたいと思ったことがない。
行きつけの喫茶店で、テーブル席ではなく、敢えてカウンター席に陣取り、「いつもの」などと注文し、マスターに軽口を叩きながら、世間話に花を咲かせる。
それは飽くまでもドラマのワンシーンであって、間違っても登場人物にはなれそうもない。
わたしの住んでいる街は、私鉄沿線の
ニュータウンとして発展した地域だ。
昔ながらの商店街などない。
それでも散歩していると、駅から離れた住宅街にひょっこりスナックなどを見つけることがある。
場末というのともちょっと違う。
日中は扉が固く閉ざされ、窓もないので、中をうかがい知ることはできない。
どんなママがいて、どんな内装で、客層はどんな感じなのか。
棚には常連さんのボトルキープしたビンが並び、明朗会計で、カラオケもあり、たまにはデュエットなどもして…
美人ママを巡って、恋の鞘当てとか。
夜な夜な繰り広げられる人間ドラマ。
妄想はふくらむが、実際にはそんな大層なドラマは期待できそうもない。
きっと郊外型のアットホームなお店なのだろう。
そもそもこんな場所でやっていけるのか。
副業的な、趣味的な店なのか。
一度中を覗いてみたいものだが、ドアを開ける勇気もないし、そこまでモノ好きでもない。
たまに、「フロアレディ募集中」などの貼り紙も見るけれど、家賃を払って、その上人件費まで払う余裕があるのか。
自宅兼店舗なのか。
客単価はどのくらいなのか。
いかにも昭和然としたこんな店に、いったいどんなお客が何人ぐらい出入りしているのか。
謎だらけだ。
張込んで、リサーチしてみたくなる。
(そこまでヒマじゃないけど)
それはともかく、
夫が定年退職してからは、ふらりと出掛けて一人で喫茶店に行き、時間を潰すことがふえた。
わたしの立ち回り先は数軒あるけれど、いつも余所余所しく迎えてくれる店が好きだ。
常連さんとして、親しく話しかけられたら、多分逃げ出したくなるに違いない。
付かず離れず、そんな距離感が理想だ。
タダノさんの記事にヒントをいただき、妄想を交えて綴ってみました。
タダノさん、いつもありがとうございます。