【スペイン巡礼3日目】 "Nobody can judge nobody." Puente de Reina→Estella
2021/9/4
巡礼3日目。
朝起きてお腹が張ってるのと痛みを感じた。
あんまり寝れなかったことと関係してるやろか。きっとしてる。
まだ外は暗い。
ゆり(妻)が持ってるお腹のガス抜きの薬をもらって、昨日宿のオーナー、ナタリアがくれたチョコバーを食べて飲んだ。
できたら、昨夜寝る前にパソコンについて言われた、同室の彼女と話がしたかった。
本当はどんな意図でそう言ったのか知りたかったし、血の通ったやり取りができたら、何と言うか滞った流れみたいなものがスッと通る気がした。
とは言え、今日の道のりは長い。
早く出ないと暑い時間に歩く羽目になって体力が削られるし、一方で寝てるところを起こす気にはならない。
話せなかったら、それはそれでタイミングじゃなかったってことだと思った。
彼女はまだ寝てる。
身支度して荷物を詰め終わって、さあ出発しようかと準備ができたところで、起きた。
彼女が起きた。
ゆりに出発を待ってもらって、速攻で声をかけた。
《僕》
昨日、パソコン開いてたら「パソコンを、カミーノに?」って僕に言ったやん?
あの前に実はドイツのおじさんに「パソコン開いて仕事してる君は巡礼者じゃない」って言われてショックだったこともあって、君に言われた言葉が気になって寝れなかったんよ。
どんな意味で言ってくれたんか聞いてから出発したくて。
よかったら聞かせてくれる?
《彼女》
昨日は飲んでて、、皮肉るつもりはなかったの、ごめん!
ドイツのその彼、めっちゃひどいね。カミーノでは、誰も他の人をジャッジできないのに(En este Camino, nadie puede juzgar nadie, por dios...)。
でも、私もそんな感じで言っちゃったね。
パソコン持ってくる発想がなかったから、あなたがパソコン開いてるのを見た瞬間は確かに「よくパソコン巡礼に持ってくるわねぇ」と思ってああ言ったの。
けどあの後はむしろ、私は今回仕事のせいで2週間で帰らなきゃいけなくて、あなたがパソコン持ってきてるのを見て「その手があったか!」と羨ましくさえ思ったのよ。
***
それから二人で10分くらいお互いの話をした。
彼女はペルー出身だった。
今はバルセロナに住んで仕事をしているので距離的にちょこちょこ歩きには来れるから、今回は2週間で行けるところまで歩くらしい。
歩きに来るのは宗教的な理由もあるん?と聞いてみたところ、一応カトリックではあるけど全然そうじゃなく、仕事や人生のこと色々考えたいから来てる。エクササイズも兼ねれるしね、とのこと。
最後に、僕らのYouTubeを是非観たいと言ってくれた。
1本目(英語版)を最後まで観てもらったら感動してくれて、「ほんと最高。めっちゃフォローするね」とチャンネル登録までしてくれた。
お互いの出発時間がどちらも遅くなることになったけど、少なくとも僕には、もしかすると彼女にとっても、必要な時間やった。
昨夜のもやもやした気持ちが、スーッと昇華できたのを感じて、彼女とお礼を言い合った。
「そのドイツのおじさんとも話せるといいね!」と言ってくれる彼女。
その通りで、ぜひ話したい。
喧嘩したいわけじゃなく、感じてることを穏やかに伝えて、彼の話を聴きたい。
けど、彼を頑張って探し出すようなことはしたくない。
会うことになってたら会えるやろうし、そこはカミーノに任せて、会えたら必ず話しかけようと思う。
宿を出る前に玄関で名前を聞いたら、クラウディアだった。
いい名前。
私は乳製品が入っているものは食べないからと、ナタリア(宿のオーナー)にもらったであろうチョコバーをくれた。
「僕らも肉は積極的には食べないようにしているクチやけど、柔軟なベジタリアン(flexible vegetarian / flexitarian)やから」とありがたく受け取った。
と、居合わせたポーランドの女性が「Yeah it's important to be flexible. I saw a Swedish girl yesterday, refusing to eat any animal-related food, oh god it's so hard to be like that especially on Camino, travelling in Spain. (柔軟なってところが重要よね。昨日会ったスウェーデンの女の子が動物性の食べ物を一切拒否してるのを見て、特にカミーノを歩いてスペインを旅するときにそうするのはめちゃくちゃ難しいなぁと思ったよ)」と合いの手を入れてくれた。
(※僕らはこの後ヴィーガンポリシーの人にもたくさん会ったしヴィーガンメニューを用意してるバルもよく見かけたので、実際はちょっと工夫すればがっつりヴィーガンポリシーの方も大丈夫です)
***
Puente la Reinaらしい美しい橋を渡って町を出て、幹線道路沿いから舗装されていない横道に。黄色い矢印が導いてくれる。
後ろから朝日がさしてきた。
と、前を歩いていたアジア人ぽい男性の巡礼者が目にとまった。
巡礼を始める前にスペイン在住の日本人の友人には1人会っていたけど、それ以外ではスペインに来てからこれまで1人もアジア人を見かけなかったので、追いついたタイミングで声をかけた。
バックパックをよく見ると、韓国の国旗がぶら下がってる。
ちょっと控えめなメガネの彼は、ジンだと名前を教えてくれた。
彼も日本人には初めて会ったと言い、同じくサンティアゴまで歩くつもりだそう。
韓国の男性は軍隊の経験もあるので基本的に体力あるイメージやけど、やっぱり足取りがしっかりしてる感じがする。
一緒にしばらく歩いてひと盛り上がり話したところで、彼のほうが少しペースが早いので先に行ってもらった。
しばらくすると、遠く前方で彼と他の巡礼者の一団が大声でジョークを言い合って大笑いしているのが聞こえてきた。
カミーノで見つけた友達たちと、ワイワイ歩くのが好きみたい。
***
道はそれから厳しく長い上りが続き、途中で休みながら何人もの巡礼者たちと言葉を交わした。
今日一番の難所だと、ドイツの人が息を切らしながら言っていた。
そんな中、僕らとペースが似ていて、休憩の度に話して仲良くなったコロンビアから来たという夫婦がいた。
名前はルイスとマルタ。
僕が南米でスペイン語を勉強したという話から盛り上がり、今日いちばん話した2人。
穏やかでおっとりしていて、お茶目で、マイペースな2人の空気が僕らも好きだった。
今日の頂上手前で、僕らのほうがペースが早くなって一旦別れた。
***
頂上を過ぎると、平坦な道から下りに変わって楽になり、周りの皆のペースも上がる。
4時間くらい歩いて足の裏が痛くなってきた頃、たくさんの巡礼者が一休みしている、巡礼者のオアシス的な小さな商店に着いた。
僕らも長めに一休み。
バナナを買おうとレジに並んでいると、1つ前に並んでいた小学生くらいの男の子がソワソワしていた。
見ると買い物リストが握りしめられていて、これで良かったかな、あれも買うべきかな、と逡巡しているのが伝わってきて可愛い。
地元の子やろうな。
「なにか手伝おか?」と声をかけると、首を横に振って「僕は大丈夫」と前を向いた。
元気なレジのおばちゃんがうまいこと、足りなかったものを補充してくれていた。
***
外に出て、バナナを食べながらみんなが会話する輪の中に入った。たまたま隣に立っていた背の高いイケメンと話が弾んだ。
彼はフランク。
サンジャンピエドポー(今回僕らが行けなかった、カミーノフランス人の道の出発地)のすぐ隣町に住んでるのに、一度も来たことなかったカミーノを歩いてみてるとのこと。
確かに、神戸に住んでてもポートタワーには登らん(ちょっと違うか)しな、その感じわかるで。と2人で笑った。
彼とはちょこちょこ、カミーノ上で会うことになる。
***
そこからも道はなかなか終わらなかった。
次の街まであと2km、というタイミングでリリーというハンガリーの女の子と一緒になった。
3人とも疲れ切っていて、気力で歩いていた。人生で最長の2kmやわ、と笑いながら一歩一歩進む。
人と一緒になって話したり笑ったりしている瞬間、疲れや痛みを忘れて知らないうちにペースアップしている自分に気づく。
後でその分のしっぺがえしが来るのかもしれないけど、あと少しのラストスパートにはいい気がする。
エステージャ、という大きめの街に着いたのは、もうすぐ16時を回ろうかという頃。
そこから街の外れにある今夜の宿まで1kmほど歩いて(これがまたキツかった)チェックインを済ませ、遅いランチをとって回復しようと体に鞭打って中心街へ。
がしかし、何も開いてない。
スペインでは大体のバルが15時半から遅くとも16時ごろに閉まるんやった(18時ごろ再開)。
こんな遅くに目的地についたのが初めてだったのと、体力削られて頭が働いてなかったのとで、迂闊やった。。
何とか一軒だけ開いてるバルを見つけて、軽くトルティージャを食べてようやく気持ち的に回復。
しばらくそこで休んで、明日の宿の予約の電話をかけたりして過ごした。
***
18時ごろ、夕飯を食べる場所を探そうとそぞろ歩いた。体は少し休んだら割と元気になった。
道すがら、昼間に出会ったフランス人のフランクがイケメンやったな、と話していたところに、タイミングよく本人とたまたま再会した。
会えて嬉しくて少し話し込み、良かったら僕らと一緒に晩ごはんどうかと誘ったら、嬉しそうにYes、と。
彼が良さそうなレストランをさっき見つけたというので、ついていく。
晩ごはんを食べながら、3人でいろんなことを話した。
彼は最近彼女と別れて、仕事についてもこれからどうするかをゆっくり考えるのに、何か特別なことがしたかった。それで、近いのに一度も来たことがなかったカミーノに来てみようと思ったそう。
ゆっくり話してみると、みんな本当に様々な理由を内に秘めてカミーノを歩いている。
やがて、他のたくさんの巡礼者たちも、店に入ってきた。僕らもフランクも知らなかったが、ここらでは有名なバルらしい。
フランクに、昨日のドイツ人のおじさんと今朝のクラウディアとの会話の話を打ち明けた。
話を聞いた彼もYouTubeを観たいと言ってくれて、その場で見てもらった。
「ドイツのその彼は君がどんな気持ちで、何をしてるかもなんにも知らないのにね。彼は君に会って謝るべきだと思うな」
と言ってくれる彼に、特段謝ってほしいわけじゃないけどゆっくり話ができたらいいなと思うと伝えたところで、フランクが静かに呟いた。
「As pilgrims, nobody can judge nobody here on the camino. (巡礼者として、カミーノでは誰も他者をジャッジすることはできない)」
クラウディアとフランクはお互いを知らない。
なのに、スペイン語と英語で言語も違ったけれど、1日のうちに2度も同じ表現を、別のひとからもらった。
またひとつ、昨日とはまた違うメッセージをカミーノから受け取ったんやと思った。
シャーリー・マクレーンの『カミーノ』で読んだ、「相手を指差すとき、残りの3本の指は自分を指している」のフレーズも一緒に思い出した。
周りの人の言動は全部、よく考えたら自分の中にも少しずつ持っている。
ドイツのおじさんが僕にああ言いたくなった気持ちや衝動も、場面が変われば僕の中に起こることが確実にある。
結局この日はドイツの彼と話せる機会は無かったけれど、クラウディアとフランクに打ち明けられて、気になり続けていたこのモヤモヤがずっと薄くなって、軽くなった。
本当に、有り難かった。
(それからは、この記事を書いている巡礼9日目現在まで一度も、パソコンについて誰からも言われていない)
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7:40 Puente la Reina出発
16:10 Estella到着
8時間30分 23km 33,208歩
Albergue juvenil Ocienada泊
↓この日の動画はこちらから
8月初旬から夫婦でCamino de Santiago巡礼の旅に出ています。出費はできる限り少なくしている旅なので、サポートは有り難く旅の資金にさせていただきます。ですが、読んでくださったり反応をいただけるだけで、一緒に旅している気分になって十分エネルギーをいただいています。^^