メンタルヘルス意識の低さ シェアする場に
からだの不調のように、こころの不調の治療が身近になる社会に――。
「心を軽くする」という意味が込められた「cococalu」として、自分の原体験から今回のプロジェクトを始動させた福永祐一さんとメンバーの大住優亮さん。今回は福永さんにKBCのSEEDs(※)イベント参加までと、メンタリングを通して感じたこと、そしてこれからの目標について伺いました。
※SEEDsは、KBCが主催する”with COVID-19, after COVID-19”をテーマにした慶應ビジネスコンテストです。6月21日(日)14時からYoutube チャンネルにて、3次審査を通過したファイナリストによるプレゼンが行われます。
〈聞き手=青木(KBC16期)〉
―― KBCのSEEDs参加までの経歴は?
奈良の西大和学園高等学校を卒業してから、慶應義塾大学経済学部に進学して(1年生の)夏に退学。それから1年間ギャップイヤーという形で東京に住み、長期インターンをしたりとか、日本をバックパックで周ったりとか、それこそ慶應や上智大学の授業に潜り込んで、上智では警備員に摘み出されて出禁になったりとか……、って結構よくわかんないことをしていて(笑)。エムスリー株式会社(M3, Inc.)という医療系の会社でインターンをしてから、今はアメリカのウィリアムズ大学に通っています。
――なかなか珍しい経歴ですよね。アメリカの大学に進学した理由は?
僕の場合、(慶應義塾大学入学時に)受かっていたアメリカとイギリスの大学のダブルディグリープログラムに夏から行く予定だったので、元々慶應大学に半年しかいるつもりがなくて。受けた授業が1個だけしか無かったのですが、テストも受けに行かなかったのでGPA(成績)が0じゃないですか。後から考えると、ものすごくアホな事したなと思っていて。
アメリカの大学では今までのGPAがそのまま反映するので、もう致命的なんですよ。それで(GPAを無くすには)慶應義塾大学を辞めざるを得なくて、受かっていた大学にも奨学金が色んな関係でもらえなくなって、もう一回受験しないといけなくて。
インターンをする中で「そもそも大学に行く必要あるのかな?」と思って、大学でやりたいことを洗い出していったときに、出てきた要素とマッチしていた大学がたまたまウィリアムズ大学だったので、専願で出して取ってもらえました。
――すごいですね。インターンは何をされていますか?
最初はどういう仕事があるのか、どういう世界があるのかを知ってみたいという受身で、I T系のベンチャーをはじめ、国会議員の事務所のお手伝いや温泉で有名な加賀の地域課題解決をしようみたいな、チルなインターンまで長期・短期問わず業種業界を広く浅くやってみて。
その中で自分がアウトプット能力がないことをものすごく痛感したので、今は医療系のベンチャーを2つというように、医療系という1個の業界で深掘りして自分の実務能力を深めるというか、1個やり切ることにフォーカスを置いている感じですね。
――インターンで最後に辿りついたのが医療だったんですね。
そうですね。たどり着いた理由は「領域」と「スキル」でそれぞれあって。というのも業種領域に関しては自分の好きなものを選べると思っていて、医療を選んだのは単純に過去にやったことがないから、という理由でしかなくて。I Tとか教育とかを経験した中で医療だけやっていないからやってみよう!と思った時に、たまたまその機会が今のインターンの話であって。
スキルは過去のインターンの積み重ねで、今までプログラミングやマーケティングをやった中で「事業開発」だけは1人で出来ないし、学生がなかなか大企業の中で経験出来ないかなと思ってやってみたら、面白くてやりがいもあったので小さいスタートアップをやっています。
インターンの経験を踏まえ、今回のSEEDsでは「企業に対し、従業員のメンタルヘルスを『①見つける ②続ける ③変わる』という3ステップを踏んだメンタルヘルス可視化サービスを提供する」プロジェクトを発表する。
SEEDs の参加理由は2つ。1つは「自分のアイデア自体を深堀する機会になったら面白そうやな」と思ったこと。元々メンタルヘルス領域の興味から漠然としたアイデアはあったんですけど、アクションまで至っていなかったので。COVID-19の影響で3月に帰国して、授業以外やることが無くて悩んでいたときに、たまたま見つけたSEEDsに参加しました。
もう1つは社会性の意義として、個人的に日本におけるメンタルヘルスのリテラシーの低さをものすごく課題に感じたこと。このピッチに関わる中で、周りの人や見てくださる方々に問題の大きさ・意識をシェアして広められたらいいなっていう2つですね。
――メンタルヘルスの意識の低さを課題に感じたきっかけは?
そうですね、結構原体験は強くて。アメリカに行ってから気分障害と呼ばれる、いわゆる日本での精神疾患の一つに当てはまる病気の診断をされました。躁(そう=いわゆるハイ)の状態と鬱(うつ)の状態を繰り返す「双極性障害」というものなのですが、その中でも僕、ラピッドサイクラーという種類なのでこの2つの状態が1週間(という速さ)でめちゃめちゃ繰り返すんですよ。しかも両方酷くて。今は治療受けているので普通なんですけど、していないと「昨日めっちゃテンション高かったのに、今日めっちゃ体調悪そうやんけ」みたいな状態が、恒常的に来るんですよね。
アメリカに行くまでは(自分も)病気のことを知らなかったので漠然と「なんで体調悪いんだろう」みたいに思っていて。でも、周りから見たらサボっていると思われていて。「自分しんどいのに」ってもやもやする機会が結構あって、大変やったんですよ。
アメリカに留学時、周りの友達に症状を伝えた瞬間に「病院行きなよ」ということを普通に言ってくれて。(アメリカでは)「めっちゃ普通やん!」って感じだったんですよ。でも日本に帰ってきてから、友達と話しているときに「(友人から)そういうこと、日本で無かったな」というギャップみたいなものを感じました。
国民性みたいなのとか、文化とかもあるじゃないですか。それこそ「がんばれよ」って結構日本語的(表現)だなと思っていて。「Work Hard」なんてアメリカで友達に対して絶対言わないんですよね。
そういう部分で良くも悪くもプレッシャーを感じている部分は大きいなと感じるので、そういった受け皿が元々狭い人には(日本は)窮屈な社会なのかなって思っています。
――そのプロジェクトで、事業者をターゲットとした理由は?
実際のところ本当は事業者じゃなく大学から徐々に上がって行きたかったんですよね。というのも、個人としての一番の問題意識が大学生にあったので、ものすごくこだわりたかったんですけど、ビジネスモデル的にうまくいかなくて。心理学的にも大学生からやる意義や意味もあまり明確に見えなかったので事業を見直しました。
企業向けのポジティブなメンタルヘルスケアサービスは最近結構聞くようになってきていて。ネガティブなメンタルヘルスのケアの部分も出てきてはいるんですが、効果的なものは全然無いなと感じています。大学生向けにやろうと思っていた最初のアイデアを事業向けでやったら解決できるんじゃないかと思うところがあったんで、そっちにビボット(方向転換)しました。
――SEEDsのメンタリングを通して変わったところはありますか?
まさに対象を事業者に変えるきっかけが、メンタリングや審査の過程だったなと思っていて。審査員の方とか、他の出場者さんの質問内容とかを伺う中で、メンバーの大住さんと「こういう風な考え方もあるよね」と持ち帰って話す材料になったので、サービスやピッチの内容含めて、変えるきっかけにものすごくなっていると思います。
ひとつ、お金の取り方みたいな質問がものすごく印象に残っていて。大学生を主体と考えていたときに「ステークホルダー(顧客)をおさえて、お金を取らなきゃいけないよね」という話が出て。今までデータとしての根拠はあったんですけど事業を使う人に話を聞きに行っていなくて。現地の声を聞くじゃないですけど、理詰めだったが故に見落としていたところでした。
――いよいよ発表ですがピッチのこだわりは?
ここまで話しこんできたことで喋りたい内容がいっぱいあるので「何をこの3分で話したいのか。Q&Aに持っていける内容はどこなのか。どこに伏線を貼ると一番僕らの言いたいことが伝わるのか」という情報の取捨選択にはものすごくこだわっていますね。
ピッチを、友人や知り合いの方にして「どう思ったか」とフィードバックをもらい、この部分全然伝わってないなとか、逆にちゃんと響いているなとか自分が思っているものと比べて、埋めています。
――これからの目標について。
人生の目標で言うと、今のcococaluの話にも繋がるんですけど「一人ひとりが自分の生きる価値を感じながら生きていける社会がいいな」と思っています。
大学卒業するタイミングまでの具体的な数字として、心理学の論文って世の中に6万件くらいあるらしいんですよ。そのリストはあるので、全部卒業までに読み切ろうと思っています。それともう1つ、学生の間に目に見える成果を起業でもブログでも論文でもいいんですけど「これやりました」と言えるものを作って何個か持って行きたいなと言うのが短期的な目標です。
中長期的には大体30歳以降で自分の名前で「これ」を作ったって言えるようになりたいなって思いますね。まだどういうものかは未確定ですが、作ったものを自分だけじゃなく他の人からも理解されていて、かつそれが自分の夢である「それぞれの人が生きる価値を感じられる社会になっているよね」と感じられるようになれば自分の目標を達成できるのかなと思います。
30歳ってことは、10年後ですね。って考えると焦りますよね、あともう10年しかない。
――最後にファイナルピッチに向けた今の意気込みを。
勝ち負けで言うと僕ら2人ともめちゃくちゃ負けず嫌いなので、大会であるが故に勝ちたいなっていうのと、個人的な思いですけど少しでもメンタルヘルスについて考えるきっかけになればと思っています。
――ありがとうございました。
インタビュー中「失敗リストをロック画面にしている」と手書きでリストに構造化されたスマートフォンの画面を見せてくれた。オフレコでしか話せない、失敗談を笑いに変えて話したり、メンバーの大住さんには「いてくれてよかった」と全幅の信頼を寄せている。2人の関係性や、福永さん自身の優しい人柄が垣間見える、そんな一時間だった。 (編集=青木 取材同行=古本 デザイン=山本・星野)
〈SEEDs ファイナルピッチ情報〉
6月21日 (日) 14:00-17:00 開催!
配信はYouTubeにて。チャンネルはこちら
ここからは余談として、起業を考えている学生さんに向けてコメントをいただきました。
――大学生での起業についてはどう思いますか?
僕はまだ起業してないんですけど、おすすめする人としない人は分かれていると思うので、自分が両方の話を聞いてみて面白そうだなって思った方の自分の直感を、言語化、理由を論理的に言語化できるのかどうかで決まるのかなと思います。
――起業する学生向けにおすすめする本はありますか?
僕結構、好奇心があって色々読むので、あえて起業の本でないものを挙げるとしたら1個は「産業心理学の論文」をすごく読んで欲しい。起業するときには色んな人から賛同を得るために交渉をしていかなきゃいけないじゃないですか。その中で自分のメンタルを一定数に保つことは重要だと思うので、肌感覚として1回理論を叩き込んでおくといいかなって思いますね。産業心理学は心理学の中でも1企業の中の、社内のコミュニケーションとか、作業の進め方とか、ミクロな話の話題を扱っているので見て学べることは多いのかなと思います。
あとは世阿弥の『風姿花伝』。長くないので一瞬で読めるんですよ、1分くらいで大切な章が読めるのでそこだけ読むだけでも違うと思うんですけど、読むとふに落ちるなって思う内容があったので、おすすめです。多分小学校の教科書か何かで言葉としては出てきているんですけど読んでいなくて、数ヶ月前とかにAmazonのKindle見てたら出てきたから読んでみたらめちゃくちゃ面白いかったので最近読みました。
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