【短編】憧れた世界
布団の中で目を開ける。
部屋を見渡して時計を見た。そして自分の両手を見る。完璧だ。僕は悪魔と取引して、ついに念願だった二次元アニメの世界の住人になった。
前の世界ではうだつの上がらない中年だった僕は、この新しい世界ではまだフレッシュな高校一年生だ。
前の世界とは違い、顔もそこそこ格好よく、身長も平均より少し高い。とりたてて目立つキャラではないが、口がうまく、なぜか女の子にモテていくといった設定だろう。
喜びに包まれながらうとうとまどろんでいると、隣に住む幼馴染が屋根伝いにやってきた。僕を起こして一緒に登校する為だろう。
薄目をあけてその姿を確認する。淡いピンク色のロングヘアーが朝日をキラキラと反射させていた。
可愛い。動く度にハートのマークが見えるようで、完璧に僕好みの絵柄だった。辟易する悪魔に何冊もイラスト集を見せた甲斐はあった。
幼馴染の女の子は窓をあけて、僕の部屋に侵入してくる。すると、部屋のドアが勢いよく開いて、青い髪色のショートカットの女の子が入ってきた。おそらく一階で朝食を作っていた、二歳年上のいとこだろう。両親が海外赴任中という事で、僕を心配して一緒に住んでくれているのだ。凛として高貴な雰囲気の女の子だった。同じ学校の生徒会長でツンデレに違いない。
幼馴染といとこのお姉ちゃんが、僕を巡ってバチバチと火花を散らす。
うぬぬ。僕はどっちを選べばいいのだろうか。いや、あるいは両方と……うひひ。いやいや更なる登場人物だってありえるぞ。
誰を選ぶにしても、これから色々な話をして、様々な恋愛イベントを共に過ごし、その昔、あっさりと素通りしてしまった青春を今度こそ色濃く取り戻すのだ。
幼馴染といとこが僕の布団を剥ぎ取った。そして、どっちに起こして貰いたいか選べとでも言うように詰め寄ってきた。口パクで。
僕は悪魔に説明していない事があった事に気付いて叫んだ。
「ああっ!」
口パクで。