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New Trombone - Curtis Fuller

Recorded May 11, 1957

カーティス・フラーの初リーダー・アルバム。

Personnel

Curtis Fuller - trombone (22)
Sonny Red - alto saxophone (25)
Hank Jones - piano (39)
Doug Watkins - bass (23)
Louis Hayes - drums (20)

カーティス・フラー
デビュー・アルバムなので生い立ちから録音までを軽くおさらいします。
フラーは1934年生まれでポール・チェンバース、ドナルド・バード、トミー・フラナガン、サド・ジョーンズ、ミルト・ジャクソンらと一緒に、故郷のパブリック・スクールに通いました。
50年に16歳でトロンボーンを始め、53年に軍に入隊、チェンバースやキャノンボール、ナット・アダレイの兄弟とバンドを組んでいたそうです。

55年まで従軍した後、同じデトロイトのミュージシャンであるユセフ・レイトフのクインテットに参加、今作のサイドマンであるダグ・ワトキンスルイス・ヘイズと行動を共にします。このバンドは1957年にニューヨークに移り、4月にサヴォイでレコード4枚分の録音をしました。
この間もリーダー・セッション、サイドマンとして幾つかの活動の後、5月に今作のレコーディングとなります。

ビバップに端を発するモダンジャズが最も加熱していた時代。如何に凝縮された時間を過ごしてきたかが、若いメンバー中心のセッションながら高いクオリティの今作から伺い知ることができます。

ソニー・レッドはフラーらと同じデトロイト出身のアルト。10代よりバリー・ハリスの下でプレイし、54年にブレイキーのセッションに参加、57年にフラーと共にニューヨークに移りアルバム3作に参加。肺疾患の持病があったためコンスタントな活動が難しいというハンデを背負っていたレッドは翌1958年、父が亡くなったのを機に再びデトロイトに拠点を移します。
ハンク・ジョーンズは既にパーカーやスティット等多くのレジェンドと共演を重ねた本セッションの屋台骨。
ダグ・ワトキンスはメッセンジャーズの創設メンバーとして一足先にNYに出てきていたので、デトロイト出身者中心のこのセッションの取りまとめ的な役割を果たしていたのかも知れません。ルイス・ヘイズはこの頃にはホレス・シルバーのバンドに参加していました。

Tracks

"Vonce #5" - 7:40
bpm=220、ややアップテンポのAABA構成のBbリズム・チェンジ、いわゆる循環もの。
ドラム・ソロのイントロから始まり、Aメロ部分はファーストノートからシンコペーションが連続するユニゾンのメロディ。
Bメロでメロディが2管に別れますが、完全音程と増4度、増5度を使い分けるハーモニー。
フラーというと『Five spot after dark』でベニー・ゴルソンが書いたアレンジでの演奏が有名かと思いますが、処女作から完成度の高いハモリを自身で書いているというのがわかります。この音域ならではのサウンド感!

実音は記譜のオクターブ下


ソロはピアノ、アルト、トロンボーン、ベース、ドラムと名刺代わりのように全員に回ります。
フラーはJJジョンソンがイリノイ・ジャケットのバンドで吹いているのを観てジャズに興味を持ったといいますが、まさにソロの最初の5度から始まる下降形シーケンスからJJの影響が見て取れます。
また、フラーはソロにおいても美しくメロディを吹くということにこだわり、予め吹くメロディを決めている箇所が散見されます。
おそらくソロの2コーラス目のメロディもそうで、数テイク目なのかメンバーに事前に伝えていたのか定かではありませんが、ルイスの誘いのフィルとフラーのメロディがバッチリ噛み合っています。
ダグ・ワトキンスはメロディを弾かずウォーキングベースでコーラスを終えますが、このラインとトリオでのアンサンブルがほんと美しいです。

"Transportation Blues" - 8:18
Fブルース。bpm=270ほどのスピード感のあるピアノイントロで曲が始まりますが、管がテーマに入るとbpm=240くらいにいきなり落ち着きます。
一聴普通のFブルースですが、よくよく聴くと一小節目の1,2拍目がコードに対してアヴォイド・ノートであるBbの二分音符という特徴的なメロディです。
この曲も全員にソロが回ります。ここでもワトキンスはメロディを弾かずウォーキングベース。ここのラインとトリオでのアンサンブルも見事です。

"Blue Lawson" - 6:51
bpm=144あたり、ミディアムのBbマイナーブルース。
オリジナルのライナーノーツによると、この時期フラーは特に熱心にマイルスに傾倒していたそうです。当時ですからどの辺りの選曲でライブをしていたのか、どのレコードを聴いていたのか定かではありませんが、『Walkin'』を思わせるようなイントロ。テーマ後に4小節のバッキングがすぐ入り、テーマとソロの境界線を曖昧にしているのが雰囲気あるアレンジです!
また、このアルバムではこの曲だけフラーの音色感が違います。最初に録音したのがこの曲だったのか?恐らくマイクのセッティング位置が違うのではないでしょうか。他の曲に比べ、ベルをマイクに突っ込んでいる感じがしますが、フラーのあたたかい音のイメージはむしろこの曲の音色感です。
フラーは他のアルバムでも曲によって音色感全然違うことがあるので、マイクに対してどの程度の距離で吹いていたのかを探っていくいい材料になりそうです。

"Namely You" (Gene de Paul, Johnny Mercer) - 9:25
フラーの音色を堪能できるのはやはりバラードですね。フラーは音色を重視してだと思いますが、特にバラードでは音域を意識的に中低域にフォーカスしているはずです。
フラーのアンブシュアについては諸説ありますが(完全に唇をめくりあげる粘膜奏法であるとか、かなりのダブルアンブシュアだったとか)、信じられないような高度な演奏も軽く吹きこなしているので、あまりにも特殊な奏法で吹いていたとは個人的には考えにくいです。
ただ技術として使い分けていた可能性はあると思います。それほどまでにフラーのあたたかい音色は個性的であり他のプレイヤーには出せない音です。

"What Is This Thing Called Love?" (Cole Porter) - 6:30
この時代の数多くのミュージシャンにヘッド・アレンジされているこのバラード曲ですが、フラーはテーマ部をラテン/スウィングのスイッチ、ソロはミディアムのスウィングで演奏しています。イントロはパーカーが”Yardbird Suite”で使用したイントロを模したと思われるパターンです。
ルイス・ヘイズは地元デトロイトのクラブ『ブルーバード・イン』でエルヴィン・ジョーンズを聴きながら育ったといいます。
トロンボーン、ピアノとソロが続きバンドのエネルギーが徐々に蓄積されていきますが、その時のシンバルレガートの立ち込めるような音色感にその影響を感じます!各々のプレイヤーの背景にも着目するとまた聴き方の範囲が広がって楽しいですね。


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