だいすき
岡村靖幸という人の楽曲をそれほど積極的に聴くわけでもない私ではあるけれど、この曲だけは別だ。
岡村靖幸の「だいすき」と運命的な出会いをしたのは、当時愛好して聞いていたビートたけしのオールナイトニッポンの中でのこと。番組の中程ぐらいで、たけしはこの曲を紹介した。
この曲のイントロが流れ始めてきた時、私は、決してオーバーでも何でもなく「なっ、何じゃこりゃあああ!」と夜中にもかかわらずデカい声を挙げてひっくり返りそうになった。
ラジオで流れたのはワンコーラスだけだったが、それだけでも十分だった。
正直言えば、この曲にだけは一発で服従するしかなかった。それぐらい気持ちの良い曲だったのだ。
何処がどう気持ちいいのか、そんなまどろっこしい説明ができない。良いからとにかく聴けよ、とだけ言いたい。そういう曲なのだ。
私は、岡村靖幸の音楽的なバックグラウンドをほとんど知らない。彼が愛好する音楽や敬愛するミュージシャンもほぼ知らない。今でさえもよくわかっていない。
しかしながら、この曲にはビビッと来てしまった。一目惚れ、みたいなものである。そこに理由だの何だのは必要なく、好きになったと言う事実だけがあれば良いとさえ思う。
しかし、今にして思うのだが、本曲は1988年のリリースだという。もう30年以上前の曲なのだが、古さは全く感じない。
そりゃあ、使われているサウンドの選択とかは古いかもしれないし、このPVにも出てくる岡村自身や妙齢の二人の女性らの姿形を見ていると、確かにあの頃を想起させるだろう。
でも、この曲は古くない。それどころか、時代を飛び越えてやってきてしまったかのような錯覚すら受ける。
この、Scritti Polittiの「Absolute」に近い感触すら受ける。
この曲自体は1984年が初出だから、「だいすき」以上に古い。そのはずなのに、ちっとも古さを感じない。
言っておくが、聴いたらわかるように両者に共通点はない。全くないのだけれど、個人的には、魂を揺さぶる何かはあるんじゃないかと思っていて、だから30数年聴いていても飽きない。
少なくとも、両方のボトムに重めのビートがあって、それがあることできらびやかな演奏が引き立っている。せいぜい私にできるのはその程度の説明でしかない。
本当に好きな楽曲の魅力を一口に説明しようとなると、それだけで途轍もない労力を要してしまう。「だいすき」などはそういう労力をかけさせる作品だと思う。
岡村靖幸のファンの人に言わせれば、もっと良い曲は他にもたくさんあると言うに違いない。それにはもちろん同意したい。
だが、私はとりあえず「だいすき」が大好きなのだ。それだけで十分なのだと思っている。