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メディア・媒体を運用するための表記ルール

~ 言葉・文章・テキストを書く前の大切なポイント ~

No.001|A.コピー基礎|A-001

書くときに必ず直面するストレス

原稿、投稿、メール、書類といった文章を書くとき、以下のようなことでストレスを覚え、何度も筆を止めた経験は、誰もが一度ぐらいはあるのではないでしょうか。

①漢字にするか。ひらがなにするか。
②送り仮名をつけるか。つけないか。
③読点(、)にするか。ナカグロ(・)にするか。
④全角にするか。半角にするか。
⑤二重カギ(『』)にするか。一重カギ(「」)にするか。
⑥「問合先」にするか。「問い合わせ先」にするか。
⑦「1月1日」にするか。「1/1」にするか。
⑧「午前1時」にするか。「AM1:00」にするか。

昨今は、PCやスマホでの入力が主流なため、もしかしたらそこまで深く考えることもなく、最初に変換された文字を無意識に使っているケースが多いかもしれません。

とはいえ、文章を書く上で、このような些末な迷いは、よくあるストレスです。

実は、コピーライター、ライター、編集者といったメディア従事者、さらには作家といった、書くことを仕事にするプロと呼ばれる人たちでさえ、上記のようなことに迷うことは、少なくありません。

メディアに不可欠な表記ルールとは

書き方のことを「表記」と言い換えることもできますが、紙出版や編集業界を中心とするペーパーメディアでは、古くから「表記ルール」というガイドラインを整備して、表記の統一をはかり、媒体のクオリティを守ってきました。

「ノートに表記する」のような用いられ方は、あまり日常的ではないですが、メディア業界では「この文言の表記ってどうでしたっけ」のようなやりとりはよくある光景です。そんなときによりどころとなるのが、表記ルールです。

表記ルールはレストランにおけるレシピ

表記ルールは、一社や一媒体にひとつというのが一般的ですが、ときには社内、編集部内、雑誌内、サイト内のコーナーなど、それぞれ個別に表記ルールが存在するケースもめずらしくありません。

そのため、新人はもちろん、他部署からの転属組、他メディアから転職してきた編集者のように、キャリアがあっても配属先や転職先の部署や雑誌で決められた表記ルールを、あらためて覚えていくケースも、少なくありません。

ペーパーメディアをはじめ、クオリティや意識の高いウェブメディアには、必ずといっていいほどに、こうした表記ルールが存在します。

メディアにとって表記ルールは、単なる文字の統一事項やトーン&マナー(トンマナ)だけではなく、ときに方向性や姿勢までをも示す、とても重要な決まりごとになるため、レストランにおけるレシピのように、メディアでは大切に、厳重に取り扱われます。

さまざまな表記ルールの呼称

小欄では「表記ルール」と記していますが、業界、部署、担当者によっては、以下のような呼ばれ方も耳にします。

・表記表
・表記ガイドライン
・表記レギュレーション
・表記マニュアル
・編集ルール
・編集ガイドライン
・編集レギュレーション
・編集マニュアル
・エディトリアルルール
・エディトリアルガイドライン
・エディトリアルレギュレーション
・エディトリアルマニュアル

いずれにしても、表記ルールは、メディアの継続とともに見直され、新しい言葉や表現が生まれるたびにも改定、カスタマイズされていくのが、理想とされています。

「表記のゆれ」とは

表記ルールの運用は、出版や公開など、コンテンツが世に出される事前に整備されるべきでしょう。なぜなら、出版後や公開後に、表記の不統一が発生しかねないからです。

ところが、編集や校正の過程ならまだしも、出版後や公開後など、コンテンツが世に出された事後に問題が生じ、必要に迫られてはじめて表記ルールが検討される、という後手の対応になってしまうケースが実情です。

ちなみに、表記が不統一になってしまっていることを、メディア業界では「表記がゆれている(揺れている)」という言い方をしますが、表記のゆれを解消する上で、表記ルールの整備はとても有効な対策です。

表記ルールの認知度が低かったウェブメディア

ウェブメディアに対して、歴史としては先輩のペーパーメディアでは、表記ルールは常識です。一方、ウェブメディアでは、歴史が短いからか、必要に迫られていないからか、まだまだ表記ルールの認知度が低いように感じられます。

実際、当方が2000年代初頭に編集長職に就いた巨大メルマガメディアでは、表記ルールが存在せず、配信・公開の事前事後問わず、表記のゆれが頻発し、何度も修正対応に追われました。

その対策として、ペーパーメディア編集出身の当方などが中心となり、当該メルマガだけではなく、同社メディア全体の表記ルールをとりまとめることになったのです。

この場合も例にもれず、必要に迫られて表記ルールを整備した、典型的なケースといえるでしょう。

もう20年弱も昔の経験ですが、当時のウェブメディア業界では、まだまだ先進的な取り組みとして捉えられていました。

テキスト表現者なら表記ルールの存在を知っておく

メディア従事者にとっては、表記に戸惑うストレスや人的ミスの軽減といった効率面だけでなく、メディアの品質や信頼性の低下を防ぐクオリティ面においても、表記ルールは重要です。

さらにメディア従事者はもちろん、ブログやSNSなど、メディアを介して世に発信するすべての「テキスト表現者」にとっても、表記ルールは意識しておくべきことでしょう。

幸いなことに、近年のウェブメディアでも、ペーパーメディアのような表記ルールの存在は、以前よりも認知されてきているようで、紙編集出身者として、喜ばしいかぎりです。

<参考>
まだ「文字校正」で消耗してるの?LIGブログの表記ルールについて整理してみた【2018年版】(2018.06.27)

表記ルールの具体的な中身とは

その名のとおり、表記ルールとは「書き方の決めごと」ですが、具体的にはどのようなイメージなのでしょう。

ドキュメントの形式・体裁としては、紙やデータなどの一覧表にまとめるのが一般的です。場合によってはブックレットや冊子、昨今はクラウドなどで都度アップデートするなど、関係者間で管理・共有されることも多いようです。

データ形式としては、Excelなどの表データファイルやGoogleスプレッドシートなどが、共有や管理面においても、適しているのではないでしょうか。

内容としては、下記のような項目が代表例でしょう。

・和文表記
・カナ表記
・数字表記
・英文表記
・全半角表記
・記号・約物・符丁類
・日時表記
・価格表記
・注釈表記
・固有名詞表記
・引用表記
・トンマナ(ですます/だであるなど)
・換言表記
・禁止文言

それぞれの項目に言及していくには、あまりにも紙幅が足りないので、小欄では今回割愛しますが、今後は、書くシーンにおいて頻度の高い、実践的な項目については、追って個別に取り上げていこうと考えています。

「書籍」として発売されている表記ルール

このように、メディアを運営する上で、表記ルールの整備は不可欠で、さらには時代やトレンドに応じて、カスタマイズしていくことが、理想的なあるべき姿です。

代表的な指標としては、「常用漢字表」「送り仮名の付け方」など、公的な資料が文化庁から出されていますが、一般メディアやトレンドとはそぐわない点もあり、できればメディア内や編集部内で独自に整備するのが望ましいでしょう。

とはいえ、コンテンツの企画、仕込み、制作など日々の業務に忙殺され、なかなか表記ルールの整備まで手がまわらない、というのが実情だと思われます。

そんなときに参考にしたいのが、表記ルールの関連書籍です。

記者ハンドブック第13版新聞用字用語集』(一般社団法人共同通信社)
朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞社用語幹事)
日本語の正しい表記と用語の辞典第三版』(講談社)

大手の新聞社や出版社から発行されている、こうした表記ルールの書籍は、新人編集者が最初に手にするガイドブックとして知られ、メディア業界にかぎらず、他の業界でも活用されています。

「歩く表記表」と呼ばれて

それでも、実際の現場では、担当部署やメディアによっての固有の表記ルールは複雑で項目も多岐に渡り、必ずしもこれらの書籍がそのまま有効になるともかぎりません。

また、これらの書籍と毎回照らし合わせながらの編集、校正、ライティングは慣れないとなかなか面倒な作業になるので、地道にコツコツと覚えていくことが、最善と思われます。

かくいう当方も、コツコツと経験を積み、表記が血肉となり、いつの日からか「歩く表記表」と呼ばれるまでにいたりましたが、そこまで極端ではなくても、こうした書籍を参考にするのは一計でしょう。

AIはライティング業に取って代わるのか

表記ルールについて説いてきましたが、ただ単純に表記ルールを守ることが重要なのではありません。それ以上に、文脈、行間、コンテキストに応じて、読み手にとって最善な表記を選択することこそ、大切な姿勢です。

自動校正やテキスト生成のようなAIは、ライティング系の仕事に取って代わると言われて久しいですが、文脈の機微を紡ぐ表記を超えた豊かな表現を生み出すためには、まだまだコピーライターや編集者といった人間の力が必要だと、信じて止みません。

書くときの基本事項

文末に、当方が書くときに配慮している基本事項を挙げて、小欄を終わりとします。

統一する。そろえる。あわせる。

(了)

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