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胚培養士みずいろを不妊カウンセラーの視点で読んでみた 第1巻前半

不妊治療をテーマに描かれた漫画「胚培養士みずいろ」。私の周りではちょっとした話題の漫画になっています。

そんな胚培養士みずいろを不妊カウンセラーの視点で読んでいきたいと思います。(不妊カウンセラーの視点といっても、結局のところ私個人の視点なのですが…)

こんな捉え方もあるんだなと思って読んでいただけると嬉しいです。

ちなみに漫画を読んだことない…という方はこちらからどうぞ

胚培養士みずいろはとあるクリニック(あえてぼかしておきます)が監修されています。モデルとなったクリニック、漫画を通して、上手く宣伝しているよな…とちょっと思ったり。きっとそう思ったのは私だけではないはず…

これは、個人的な感情ですが、この漫画の主人公の水沢さんは正直苦手なタイプです。この記事を書いている時点(20240606)で5巻まで出ていますが、やっぱり好きにはなれません。ということで、水沢さんの発言に関しては厳しめなコメントもあることご了承ください。

第1巻は
登場人物の紹介もかねて、培養士業務の簡単な紹介から始まります。培養士の研修システムはクリニックによってそれぞれですが、これぐらい研修制度がしっかりしているクリニックを選びたいところです。

では気になったところをいくつかかいつまんで書いていきます。

気になる培養士の発言

このクリニックの特徴のひとつが患者説明を胚培養士が行うという点です。(漫画構成上もこうしないと話進みませんからね…)

その中で気になったのが「2個胚移植」の患者説明の箇所。あくまでも漫画なのですが、患者の前で「人は見たいものしか見ない」とつぶやくのはいかがなものかと…

確かに「人は見たいものしか見ない」生きものです。自分達の都合よくしか解釈しない…そんな患者さんを何人も見てきたという医療者も多いでしょう。それでもこのセリフは患者の前でつぶやくセリフではないと私は思います。

漫画であっても、このような発言は裏側でしてほしいものです。患者さんって聞いてないようで独り言のような発言聞いていますし、表情の微妙な変化も察する人は察しますから。(そしてそれが今後の信頼関係に影響を及ぼしすことも…)

このやり取りでもう1点気になったのが、「この受精卵はひとつでもちゃんと育ってくれると思う」という発言。本人は言い切りではなく、患者に希望を与えたかったと言っていますが、患者さんに言い切ったと取られても仕方ない発言なんじゃないかなと思います。

実際にグレードの良い胚盤胞が複数あっても1個も着床しなかったという事例もありますし、PGTで正常胚を移植しているにも関わらず、1個も着床しなかったという話も聞いたことがあります。

医療に絶対はありません。何より医師以外、診断は出来ません。だからこそ、医師を除く医療職は患者さんとの会話で、断言しないように、言い切らないように教育を受けているはずです。だからこそ、度々言い切る発言をする水沢さんにはちょっと疑問が…

もちろん漫画の中での話。
水沢さんを少し神がかったように描きたかっただけなのでしょうけど…(その後に登場する現実派の一色さんとの対比も含めて)、開始早々、この漫画にかなり不安になったのも正直なところです。

卵の声が聞こえれば、医師も培養士も患者もどれだけありがたいでしょう…
PGTの先進Bすら進まないとヤキモキする必要もないのですから。

男性を取り巻く不妊治療の話

次の話は、男性パートナーが、子どもは欲しいと言うのに、タイミングに非協力的で「自然に…」という言葉を使用したり、病院受診を拒んだりとあるあるなところから話はスタート。

男性の検査は行わずに、女性だけがタイミング治療のために淡々とクリニックに通っているところから、ようやくパートナーを説得してクリニックまで連れてきます。

そういう意味でも、保険診療で最初に夫婦受診が必須なのはよかったなと思っています。少しずつ男性の意識も変わってはきているものの、このような強制力がないと受診しない人がまだまだいますから。

ちなみに余談ですが、20年以上前、臨床検査技師として精液検査を行っていたことがあります。2000年頃の話で、まだここまで不妊の情報もなく、臨床検査技師の養成学校でも不妊についてはほとんど習うことはありませんでした。(なのに国家試験に精液検査項目が出たのです。試験後にカフェで精子が精液が…と会話していた女子学生の団体よ…周りはビックリしていただろうなと今になって思います。)

当時は大学病院からの検体が主で、無精子症や乏精子症の検体も少なくありませんでした。今でも覚えているのが、精子がみつからないと先輩に報告した時の表情です。「精液検査は結果次第で夫婦の人生を大きく変えてしまう」そう言われたことは、今でもはっきりと覚えています。

話を漫画に戻しますが…
だからこそ「精子がいない」という検査結果を突き付けられたら、多くのカップルは戸惑いを隠せなくて当たり前です。
自暴自棄になる人もいるでしょう。離婚という結論に至るカップルもいます。精液検査に関わらず、検査結果というものはそれぐらいデリケートなものを含んでいます。

にもかかわらず…なぜか突然待合室で患者の説得が始まるシーンはビックリです。そしてまたここで保証が出来ない約束をしてしまう。漫画、演出とはわかっていてもモヤモヤするシーンのひとつでした。
(この回は結果オーライになるからいいのですが、授精に使える精子が見つからなかったらどうしたのでしょう?)

女性の本音

男性を取り巻く不妊治療の話の中で出てくる、ノートに綴られた、誰にも吐き出せない女性の本音に関するシーン。

妹の妊娠に絶望し、死にたいとまで綴ってしまう気持ち。
もしかしたら、この3ページに胸が締め付けられて苦しくなった人もいるのではないでしょうか?

ただこの描写は決して珍しいものではありません。このような感情を胸のうちに秘め、自分の存在価値すらわからなくなって、必死に治療をしている女性はたくさんいます。

胚培養士みずいろは男性向けの雑誌に掲載されている漫画。だからこそこの3ページは男性にしっかりと読んでほしいし、パートナーが何も言ってこないから大丈夫ではないことを知っておいてほしいと思うのです。

ぐちゃぐちゃした感情と向き合う

不妊治療をしているとこのような「ぐちゃぐちゃになった感情」とどうしても向き合わないといけない時があります。

普段はこれらの感情に蓋をして平然を装っていても、ふとした時にあふれ出てくることもあります。そばにそんな思いを聞いてくれる人がいれば良いですが、相手の心理的負担も考えるとなかなか難しい。

クリニック等でカウンセリングを予約して聞いてもらうのも一つですが、そのような場もなかなかない…という時は、紙に思うままに書き出していくのも一つの方法です。
誰にみせるものでもないので、思うままに書きなぐってみてください。そして、書き出した言葉を見て今の気持ちを否定せずに受け入れる。私も不妊治療中に何度かやったことがあります。

ちなみに書き出した紙は残しておいてもOK、処分してもOK。当時の私は書き出して落ち着いたら、シュレッダーにかけていました。

それでもスッキリしない時は、やっぱり専門のカウンセラーさんに話を聞いてもらうのがいいかと思います。本来ならクリニック内でそこまでサポートがあればいいのですが、不妊クリニックでのカウンセリングは保険点数が付かないので、カウンセリングまで対応していないクリニックも少なくないんですよね。
そんな時は生殖心理士の資格を持った臨床心理士さんや公認心理士に直接相談するのもありです。

ただカウンセリングと一言でいっても、スピリチュアルや怪しげな反医療的なものもあるので、ひかからないように注意が必要です。

今回の感想レポはここまで。
本当は1巻を終わらせてしまいたかったのですが、最後の話が、高齢不妊治療、卵子凍結、不妊治療と仕事の両立、治療終結とキーワードが盛りだくさんだったので、次回に持ち越します。

現在、不妊治療と仕事の両立支援に関するアンケートを行っています。

期間:2024年3月14日~2024年6月30日 (期間延長中)

アンケート対象者
・不妊治療と仕事の両立に悩んだことがある人、現在悩んでいる人
・治療ステージは問いません
・悩んだ結果、治療をしなかった方も対象になります。

少しでも多くの方にお答えいただければ嬉しいです。
アンケート回答のご協力、シェア・拡散をどうぞよろしくお願いいたします。

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kazuyo usui 不妊カウンセラー・臨床検査技師
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