動物病院のカルテ　ギャル犬

「ランって、人間だと何歳ですか？」

診察がひと段落したところで、よくある質問が出ました。
山田ランちゃんは10ヶ月齢のトイ・プードルで、とにかく元気いっぱいの女の子です。

「ハタチ手前くらいですかね」

人と犬は歳の取り方が違うので一概には比べられないけど、羽尾先生はわかりやすいように、そう答えました。

「そうなんですね」

嬉しそうにランちゃんをキャリーバッグに入れながら、山田女史は言いました。

「じゃあ、人間だとギャルですね！」

「です…、か、ね…」

ランちゃんはギャルなのか？
その年齢の人はみんなギャルなのか？
犬にそんなものあるのか？
そもそもギャルって、なんだ？

羽尾先生がそんなことを考えているうちに、山田女史は帰り支度を終えて、じゃあ、と診察室から退出して行きました。

こういう会話の瞬発力に欠けるのが、自分の弱みなんだろうな、と羽尾先生は情け無い気持ちになりました。
そんな羽尾先生の表情を見ながら、助手のワタリさんは気づかれない程度に微笑んで、今使った診察台の掃除を始めました。