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マネーフォワードが推進する「コンポーネント型ERP」戦略とは

みなさんこんにちは、マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田です。

先日、「ビジネス事業に関する戦略発表会」として、メディアの方向けの発表をさせていただきました。

今回は、その前半にお伝えした「コンポーネント型ERP戦略」について、改めてnoteでも書いていけたらと思います。

『マネーフォワード クラウドERP』とは

マネーフォワードでは、成長企業・中堅企業向けクラウド型ERPとして、2020年10月より『マネーフォワード クラウドERP』の提供をスタートしました。

ERPは約30年前から日本で使われ始めたと言われていますが、その中心はいわゆるオンプレミス型と言われる形態でした。

一方、企画を進めていた当時、クラウド型ERPはまだまだ普及しておらず、マネーフォワードとしてクラウド型ERPを提供できたら、ユーザーのみなさんに価値を感じていただけるのではないかと思ったことが、開発の背景の一つです。

従来のオンプレミス型ERPは、大企業向けで導入費用が高くカスタマイズが大変という特徴があり、多くの企業にとっては導入ハードルが高いシステムでした。

その点、クラウド型ERPであれば、初期投資が少なく短期間で導入が可能です。

また、特に成長企業においては、頻繁な組織変更や新規事業の立ち上げ、子会社の増加や海外進出等、短いスパンで大きな変化が発生します。その際、バックオフィスはその変化にいかに柔軟に対応できるかが求められますが、時代の流れに合わせて変化するバックオフィスのベストプラクティスを成長企業に向けて提供できるERPを提供したい、そんな思いでクラウド型ERPの構想を進めていました。

そして「変化をおそれない企業のための進化しつづけるERP」をプロダクトビジョンに掲げ、これからの日本を支えていく成長企業にフォーカスして提供開始したのが、『マネーフォワード クラウドERP』です。

(※)『マネーフォワード クラウドERP』提供開始の思いは、峰島さんのnoteをご覧ください

(※)ERPの歴史や『マネーフォワード クラウドERP』の開発背景については、廣原さんのnoteで詳しく語られています

「コンポーネント型ERP戦略」をとる理由

『マネーフォワード クラウドERP』は提供当初から、

まずは個別プロダクトからの導入も可能ですし、将来的には『マネーフォワード クラウドERP』の他プロダクトと組み合わせることで、より利便性高く使っていただくことも可能です。

と、お客様にご紹介してきました。

これを社内では「コンポーネント型ERP」と呼んでいたのですが、お客様やメディアの皆様から、それを『マネーフォワード クラウド』の特徴と捉えていただく機会も増えてきたので、今回改めて「コンポーネント型ERP戦略」として発表させていただくこととしました。

(2023年1月に発表した2022年11月期の通期決算説明資料にも「コンポーネント型ERP戦略」として掲載させていただいています。)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/3994/ir_material_for_fiscal_ym/129626/00.pdf

ではなぜ、「コンポーネント型ERP戦略」を採用しているかですが、一言で言うと、課題感のある分野を優先して、クイックにまずは部分的にクラウド化するというお客様のニーズに対応するためです。

ここ数年、コロナ禍でのリモートワークの普及や政府によるデジタル化推進、2023年10月のインボイス制度の施行等の法改正によって、以前にも増してスピード感を持った企業経営が求められていると感じています。

そんな中、すべての業務システムをまるっと一括で入れ替えるのはハードルが高いけれど、環境変化に合わせて、一部分だけを最新のテクノロジーを取り入れて改修したいというニーズが増えている実感があります。

そこで、そのような声に対して柔軟に対応できるサービスとして、一つのサービスから導入可能な「コンポーネント型ERP」という形式でご提供している次第です。

「コンポーネント型ERP」とよく対比される考え方としては「統合型ERP」があります。

(発表会資料より)

どちらが良い・悪いという話ではなく、設計思想として違いがあり、それぞれにメリットデメリットのある考え方です。

「統合型ERP」は、会計やその周辺領域を全部まとめて導入して、それぞれ業務効率化を図っていくものです。最初にすべての業務フローを全般的に設計した上でシステムを導入するため、全体的にデザインされた状態で業務をスタートできることが利点です。

ただし、多くの導入には通常1年〜3年ほどの時間を要します。課題感が大きくない領域まで含めたシステム導入が必要なために、課題感の大きい領域を解決するまでの時間・コストがかかってしまうデメリットがあります。

一方、「コンポーネント型ERP」は個別サービスを単独でも利用できるのが特長です。課題の大きい領域に1サービスから導入できるため、スピード感を持った課題解決ができます。また、少しずつ対応領域を広げることで、将来的にバックオフィス全体のクラウド化まで実現することが可能です。

(発表会資料より)

そして、マネーフォワードとして「コンポーネント型ERP」を提供して2年以上経ったいま、感じることの一つは、SaaSとの相性の良さです。

私たちが提供するSaaSには、必要な機能・必要な期間分だけの料金をお支払いいただくことで利用できるという特徴があります。この特徴は、必要になったタイミングで、必要な業務領域から導入できるというコンポーネント型ERPの考えとマッチするという意味で、SaaSの本質的価値が最大限いきる提供方法なのではないかと思います。

またもう一つ感じるのが、テクノロジーの進歩によって、よりコンポーネント型ERPがマッチする経営環境、IT環境になったということです。

現在では多くのWebサービスがAPIを公開しているため、一つのベンダーでロックインする必要はなく、様々なベンダーのSaaSを組み合わせることで疑似的にERPを完成させることができるようになったことから、コンポーネント型ERPをより推進できる環境になったと捉えています。

見えてきたユーザーペイン

このように、「コンポーネント型ERP」を提供する手応えも感じていますし、お客さまからはありがたい声や反響を多くいただいています。

一方で、マネーフォワードの複数サービスを併用利用してくださるユーザーが増えたことにより体験に課題も見えてきました。

中堅企業1ユーザーあたりの平均課金プロダクト数は、2019年11月期に1.1プロダクトだったものが、2020年11月期は1.3プロダクト、2021年11月期は1.6プロダクト、22年11月期には2.4プロダクトまで数字が向上しています。

(2022年11月期の通期決算説明資料より)

するとお客様から、「同じマネーフォワードのサービスを使っているのに、複数箇所でマスタ設定をしなくてはならないのは面倒だ」というご意見をいただくことが増えました。

「コンポーネント型ERP」の場合、全体で一つのデータベースを持つ「統合型ERP」と違い、データはそれぞれのプロダクトで分かれて保有しています。

(発表会資料より)

だからこそ単体1サービスでの導入が簡単というメリットがあるのですが、2つ以上のサービスを使う場合、サービスごとにマスタを設定する必要があります。

例えば、従業員が入社した場合に『マネーフォワード クラウド給与』で従業員登録をした後には『マネーフォワード クラウド勤怠』でも同じように入社処理をしないといけない。

そういった「マスタの2重メンテナンス性」が現実問題としてあり、リアルタイム性が損なわれてしまう課題がありました。

具体的な取り組み

「コンポーネント型ERP」は非常にいいコンセプトだと自負しており、これを日本にもっと定着していきたいと考えたときに、「マスタの2重メンテナンス性」という弱点は、なんとしても解決していく必要があります。

そこで現在、併用時の体験価値の向上に向けた「マスタ共通化の取り組み」を進めています。

マスタ共通化の取り組み

複数プロダクトをご利用の際に、マスタを2重メンテナンスする必要なく、一度の追加・更新・削除で、全サービスのマスタが最新化されている状態を保つ、それがマスタ共通化の取り組みで実現していくことです。

そうすることで、先ほど例としてお伝えした入退社の処理だったり、従業員に関する何かの変更届が出されたタイミングで、その従業員情報を一度修正すれば、すべてのプロダクトのモジュールにデータが自動反映され、転記のミスやメンテナンスの手間・コストを大幅に削減することができます。

先日、マスタ共通化の第一弾として、『マネーフォワード クラウド個別原価』のプロジェクト管理マスタをリリースし、『マネーフォワード クラウド個別原価』と『マネーフォワード クラウド会計Plus』で、相互にプロジェクトの登録・編集・削除ができるようになりました。

『マネーフォワード クラウド個別原価』の「プロジェクト管理マスタ」の画面でデータを登録すると、『マネーフォワード クラウド会計Plus』の「プロジェクト管理マスタ」画面にも自動でデータが反映されます

今後も、取引先、プロジェクト、部門、勘定科目、従業員・組織・役職マスタなど、様々なマスタの共通化を進めています。

このマスタ共通化を実現することで、「コンポーネント型ERP」として複数サービスをご導入いただいた際にも、「統合型ERP」と遜色ないユーザー体験を得ていただくことが可能と考えています。

また、並行してワークフローエンジンの共通化も進めています。

これまで、従業員の異動や退職、組織変更などがあった場合、ワークフローの承認経路を各サービスで設定する必要がありました。

今後は、ワークフローエンジンを共通化することで、一つのサービスでワークフローの経路を設定すると、他のプロダクトのワークフロー設定でも利用できるようになる予定です。ワークフローエンジンの第一弾としては、今春に『マネーフォワード クラウド人事管理』にワークフロー機能を搭載し、2024年内にすべてのサービスへの共通ワークフローエンジンの搭載を目指します。

API連携開発の推進

また、他社サービスとのAPI連携も強化していく予定です。

部分導入できるSaaSの本質を考えると、必ずしもすべての機能を一つのベンダーで揃える必要はないと考えています。 

今、マネーフォワードが提供できていない領域にも当然ユーザーペインは存在しますので、他ベンダーも含めた統合的なソリューションとして業務効率化を推進するために、他社サービスとのAPI連携の拡充にも引き続き力を入れていきます。

また、「コンポーネント型ERP」のメリットとしては、新たにシステム導入される企業だけでなく、すでに基幹システムを導入済みの企業も、既存のシステムを入れ替えることなく部分的にSaaSを導入できる点があります。

「ポストモダンERP」と呼ばれることもありますが、既存の基幹システムと『マネーフォワード クラウド』との連携性を良くするためにも、API連携開発を推進していきたいと考えています。

『マネーフォワード クラウドERP』で今後実現していきたいこと

まずは、一つ一つのモジュールでできることを増やすということです。

既存のサービスのレベルをさらに磨くのはもちろん、まだERPとして提供できていない領域もあると考えているので、さらなるモジュールの拡充も検討していきたいと思います。

マネーフォワードとしては、創業プロダクトである個人向けの『マネーフォワード ME』から派生して、個人事業主向けの確定申告ソフト、そして法人向けの「会計ソフト」をリリース、さらには会計の周辺領域である請求書の発行・受領や経費精算、その他人事労務、法務領域へ、バックオフィス全般に領域を広げてきました。 

マネーフォワードグループ全体で言うと、最近サービス名の変更を発表した『Admina』(マネーフォワードi株式会社提供)は、情報システム部門向けにもサービス展開しています。

直近1年でも、請求書受領システム『マネーフォワード クラウドインボイス』、連結会計システム『マネーフォワード クラウド連結会計』、個別原価管理システム『マネーフォワード クラウド個別原価』の3つのコンポーネントを追加しました。

今後も、お客様のニーズに合わせた、サービス拡充をしていく予定です。

そして、サービス単体でご利用していただいた時のUXはもちろん、複数サービスを併用利用いただいた際や他社サービスと併用利用いただいた時のユーザー体験価値の最大化を追求していきます。

さらに、その先の目指す未来としては、SaaSの利点でもあるデータの利活用があります。

『マネーフォワード  クラウドERP』の中に溜まったお客様のデータを利活用して、いかにより高い付加価値を提供できるかにチャレンジしていきます。

その一つが、SaaSの中にファイナンス機能を組み込む「Embedded Finance(=組み込み型金融)」ですが、この内容についてはまた次回、改めて書いていく予定です。


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