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「電力会社の憂鬱」第5話

魔界部屋

人事部には通称『魔界部屋』という作業場がある。
超極秘マターである人事異動や人事措置が話し合われる部屋である。
そこで、社員の2~3年、時には一生を勝手に決められてしまう。
部外者だけでなく、人事の担当でない他の課の部員も、その部屋の存在を知っていて見ないふりをする。
不思議な、まさに『魔界部屋』である。

いまそこで二人の男がコソコソ話をしている。坂本と山本である。
「部長、お約束の2週間です。至りませんが異動案を考えました。」
「ご苦労。その前に、構想を石田常務に説明した。」
人事担当常務の石田も、人事一筋で、全く妥協を許さない。
管理業務の権化のような男である。
見かけは坂本とは逆に痩せ型で、いかにも融通が利かなそうな青白く角張った顔つきである。
坂本との共通点は「目が笑っていない」というところで、更に「この世に楽しいことなど何もない!」と表現しているかのような顔つきである。
笑い顔を見たものはほとんどいない。
「時々こういう異動で他部門に刺激を与えるべし。これからも人事権を駆使して、人事が会社を仕切れ。」と励まされた。
加えて、今回は小村社長が地域経済連合会の会長に就任されるので、徹底的にフォローすることを忘れるな。」とも言われた。
「はい。心に刻み込みます。」
と山本。

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