「電力会社の憂鬱」第21話
光と影
高宮理子は、地元の寿司割烹の一番奥まった小部屋で、四つ葉重工の清水支社長と一緒に二人の男と対峙していた。
男たちは地元業者の山田土木の社長の山田と、随行の専務であった。
地元の有力者の紹介で、清水支社長と同席するよう求められたのである。
名刺交換の後、山田が口を開いた。
「これはこれは、高宮次長は大変な美人と伺っておりましたが、ここまでとは思いませんでした。
先生もお喜びになるかと思います。」
ゲスで卑屈な態度で山田が呟いた。
「先生て・・・?」
「まあまあそれは追い追い・・・
我々地元業者に公平に幸せを運んでくださる神様のような方ですよ。
そんなことより、とりあえず乾杯しましょう。」
山田は一人で喋りつづけた。
「ところで清水さん、蒸気発生器の取り替え工事、大変な予算規模なんでしょう?
次は私どもの順番ですから、是非ご認識を。」
清水はちらっと高宮の顔色を窺いながら返答した。
「それは十分理解しております。
今は全体予算しか把握できておりませんので、号機ごとの予算規模の算定が済み次第お知らせいたします。」
「そうですか、ありがとうございます。
さすが清水さんは物分かりがいい。」
高宮はこの会話だけで、全てを理解した。
先生と呼ばれる地元の実力者が、電力関係の発注の全てを仕切っており、次がこの目の前にいる怪しげな会社の番。窓口は清水が務めていて、どうも自分を巻き込もうとしている様子である。
また「蒸気発生器取り替え工事になんで土木業者?」「特命発注?」「予定入札価格の秘匿性は?」など一瞬にして頭に浮かんだが、宴席の間に高宮が言葉を発したのは一言だけだった。
「われわれは元受けである四つ葉さんに全てお任せしておりますから。」
これ以降、高宮は酒や料理に一口も手をつけずに、宴席は一時間ほどでお開きとなった。
帰りに出口で山田が何やら手土産らしい袋を女将から受け取っていた。
「次長、これはほんのお近づきのしるしです。地元のうまいお煎餅です。
寮でお疲れになった時に甘いものをとると元気がでますよ。」
高宮は何度も固辞したが、ついに押し付けられるように抱えさせられてしまった。
その煎餅の包みに、山田の卑屈な作り笑い顔が重なり、高宮は感覚的に強烈な違和感と罪悪感を感じていた。
帰り際にこそこそ声で、
「難しそうなお姉ちゃんやな。」
と呟く声が聞こえた。
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