「電力会社の憂鬱」第3話
本社の横暴
今日も疲れた体を引きずって、補修課兼蒸気発生器特命チームの執務室に足を運んだ。
東京で買い込んだ「芋羊羹」が手土産である。
みんな大好物なことはわかっていたが、反応がない。
課員の表情を見ると、全員目が充血して、疲れ切っている。
補修課長が飛んできた。
「次長、ありがとうございます。あとでいただきます。」
「いったいどうしたんだ?」
「本社からの命令の資料作りで、みんな疲れ切っています。
ご無礼があったならお許しください。」
「何の資料なんだ?」
「今回定検で『過去最悪』とか言われたもので、本社原子力管理部がナーバスになっています。
宮崎は、全プラントの運転開始以降の、定期検査ごとのプラグ本数の実績をトレンドで表にしろと言われています。」
「こいつが生まれる前からのデータを掘り起こせということか?」
「はい。しかも明日朝までに。」
「篠原。お前は?」
「南川副社長が、スリーブに疑念をお持ちなので、四つ葉重工からの購入実績と使用実績を時系列で出せと言われています。」
スリーブとは、探傷検査で異常値が出たものの、プラグまでする必要がないので、細管の内側に更に薄い管を挿入して、細管を継続使用するための工法である。
ただし、溶接に適している金属素材が「金」であるため、一本100万円前後する。経理担当の南川副社長は驚き、前々から執拗にその必要性を指摘していた。
「いつまでに出せと言うんだ?」
「これも明日朝までと原子力管理部からの厳命です。」
酷すぎる。
「それと・・・。補修課長が言いよどんだ。」
「どうした。何があったんだ。」
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