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ガンダム史に残る不正解エンドだが貧困問題を浮き彫りにした意欲作【鉄血のオルフェンズ】

ミームでしか知らなかった鉄血のオルフェンズがアマプラで追加されたのでようやく観ることができた。

2期からがひどいと聞いていたがその噂通り実際に観ていると唖然として終盤の畳みかけを迎えることとなる。

キャラの扱いや脚本の作りなどの制作観点から批判が多いのは理解ができるしそのことも書くとは思うが、敢えてこれを一つの意欲作品として向き合った上での視点でも語りたい。



完璧すぎて言うことがない1期

1期あらすじ
かつて「厄祭戦」と呼ばれた戦争が終結してから約300年。三日月・オーガスが所属する民間警備会社クリュセ・ガード・セキュリティ(CGS)は、火星都市クリュセを独立させようとする少女、クーデリア・藍那・バーンスタインの護衛任務を受ける。しかし、武力組織ギャラルホルンの襲撃を受けたCGSは、三日月ら子供たちを囮にして撤退を始めてしまう。CGSへのクーデターを決意した少年達のリーダー、オルガにギャラルホルンの撃退を託された三日月は、「厄祭戦」時代のモビルスーツ、ガンダム・バルバトスを用いて戦いに挑む

この作品も宇宙世紀からは外れた暦の話になり、舞台は火星、地球、木星の視点、組織から構成される。

主人公となる三日月やその兄貴分オルガなどを含めた少年らは元々はヒューマンデブリとして生まれた孤児であり、火星の民間警備会社CGSに奴隷のように働かされていた。

ちなみにヒューマンデブリとは身売りされた子供という意味になる。

ギャラルホルンの襲撃をきっかけに少年らはクーデターを起こしCGSからは独立。「鉄華団」という名の下彼らは新たな希望と居場所を求めて革命軍として戦っていく。

1期は火星独立運動家のクーデリアの護衛の大義の元、社会構造の中で弱者にさらされた革命として体制と対立していく構図は非常に分かりやすく面白かった。

少年兵個々のキャラクター構成も絶妙に影と陽を兼ね備えたバランスで愛されやすい見た目も含めて設計が上手い。

そこに介入するクーデリアやアトラの女性陣も少年兵に対する大人と母性の役割をしっかり発揮しており、直前にSEEDを見ていた自分としてはキャラクターの幼稚さにストレスなく話に集中できたのも余計に好印象だった。

後半ではテイワズという「木星を拠点にした大企業」という表向きで実態はほぼ極道である大きな組織に後ろ盾として得てから鉄華団は組織として上向いていく。

最後もクーデリアを地球に還す任務を成し遂げ、多くの仲間の犠牲を払いながらも対立していたギャラルホルンとの調停を結び鉄華団は世界からも一目置かれる新興組織となり綺麗に終わっていく。

ここまでは話や見せ場の作りも完璧で言うことなかった。


当時の社会問題をガンダムに昇華させた新たな家族観


鉄血のオルフェンズで特筆すべき点は現代にも続く社会問題をキャラクターに盛り込んだ上で見せる鉄華団という新たな家族観だろう。

放送当時は2015年だったようだが2010年代は社会経済や家族構造における「若者の貧困」やスマホ普及などに伴うリアルとは離れた個人発信とコミュニティにおける多様な帰属意識の変化など、

2020年以降の社会地殻変動予測も前提とした「過渡期の社会」と言われる若者にとっても目まぐるしい時期だった。

そんな貧困が見えてくる社会で生きる生存戦略として自ずと流行っていたのが「シェア」である。

シェアサービスやシェアハウス、SNSを中心にした情報のシェアなど物や情報、衣食住に関わる全てを誰かとシェアすることはこの過渡期を迎えることによって我々、特に若者は当たり前の価値観になった。

シェアを誰かとするまたは享受するということはその世界の人々に対しての無条件の信頼と帰属意識がなければ成り立たない。

それだけにスマホの発達によって世界とのアクセスと「ここではない誰か」との多様な繋がりと帰属意識が増えていった。

生存戦略だとしてもシェアによって生まれてくる絆は「お互い様」であり、強固になるほどまずは「こちらが与えたいから与える」に変わっていく。

その繋がりによって生まれるコミュニティなどの仲間は本当の家族以外とは異なる新たな家族観の誕生にも繋がっていく。

そういった他人であったはずの人がレイヤー化していく世界や誰かへの「シェア」によって新たな家族観を持ち始める若者は当時の空気として多かったし、それを鉄華団という少年兵の形に上手く昇華していたと思う。

その「シェア」による絆のきっかけは戦後の歴史を通してみても奇しくも「貧しさ」から来るものなのである。


転換点になった参謀の死


鉄華団では唯一参謀のポジションにいたビスケットが1期の終盤で戦死する。

団長のオルガはカリスマ性と仲間や戦局を見据える洞察力はずば抜けているが、目先に飛びつく感情的な言動も多く先を見据えた大局的な思考は中々できないリーダーだった。

その兄弟分の三日月は一線級の兵士としての戦闘力は鉄華団1だが彼も先を見据えた思想や意識は少なく、オルガの進む道についていくのが彼の信条であった。

鉄華団のほとんどは貧困の背景によってまともな教育を受け入れておらず先を見据える想像や知性は愚か読み書きができる人間も少ない。

そんな中で読み書きも唯一できる冷静なブレインであり、火星や地球に兄妹を持っている次男としての穏やかな人間性や戦う個人の目的も併せ持つビスケットが鉄華団のバランスを大きく担っている存在だった。

これまでの一人がガンダムのパイロットとして責任を全て担わされるのではなく各々が得意な役割を家族として敬い、果たしていくのも現代的でよかった部分。

最後は兄の死をきっかけに保守性と鉄華団としての幸福を見据えるビスケットと目先の利益と成り上がりだけを見据えて突っ走るオルガの意見と対立したまま退場する。

全体を通してみても彼の死は鉄華団にとって大きな転換点であり、2期への礎として意図的であったとしても途中から出てきたカルタというヒステリック気味なパイロットにやられたのは若干胸糞の残る退場劇だった。


2期あらすじ
三日月・オーガスが所属する鉄華団は、クーデリア・藍那・バーンスタインの地球への護送からアーブラウ代表指名選挙を巡る戦いで一躍名を上げた。そしてその戦いでギャラルホルンの腐敗が暴かれたことにより、世界は少しずつではあるが確実に変わりつつあった。アーブラウとの交渉で得たハーフメタル利権のもとテイワズの直系となった鉄華団は資金も潤沢となり入団希望者も増加。その規模は地球にも支部を置くほどとなった。

新興組織として名を上げ一目置かれた鉄華団の躍進とギャラルホルンとの調停により世界は落ち着き始める。

そんな中でオルガは更に成り上がるために進み続ける反面恨みを買う組織も現れ始め体制の外圧を受けながらも戦っていく話になる。

ビスケットの参謀を失くした鉄華団の選択はオルガの判断による更に危険な綱渡りを強いる展開になるのが2期の大きな展開となっていく。

ここから当時の炎上やミームに発展する問題的な退場劇が待っているのだが、話の大枠として見た展開や終わり方としては個人的に問題は感じなかった。終盤にかけてのキャラの扱いは確かに適当だったが。

1期から続く構造的な「貧困」をテーマを軸として見たときに全滅エンドを決めていたのなら話としては鉄華団視点としては一応筋は通っていと思う。


オルガの死の正当性

作品を見ていなくても目をするほどの彼の元ネタを観れてこれほどのネタ扱いされていたことには腑に落ちた。

ただ制作サイドの意図を敢えて想像して考えると彼のあの退場劇の正当性も見えてくる。

やはり鉄華団の参謀だったビスケットの悲劇の致命傷はここにも繋がるのだろう。

2期を通して見えるのは先を見据え保守的な考えを口にしているのは途中加入してきたこの整備士の男のみである。


それ以外はオルガの目指す「火星の王」に向けて同じ方向を向いて戦っているためストーリー上、人によっては邪魔で生意気に見えてしまう人物である。

しかし終盤おやっさんは彼に対して「全員がそんな風に言える人間だったらどれだけオルガは楽になれるか。そうして考えることを辞めるなよ」と声をかける。

これが英雄から指名手配犯にまで世界の扱いが落ちる鉄華団の象徴を指す言葉だった。

ビスケットが死んだことで鉄華団の行く末は決まったようなもので、オルガの目先の利益と成り上がりのためには手段をいとわないやり方で鉄華団は組織として大きくなりすぎてしまった。

オルガのやり方に対して疑えるものは殆どいない。

それは恐怖政治など古典的なことではなく、彼のカリスマ性だけを信じてやまず個人の幸福やその先を見据える知性が半ば足りていない兵士が殆どだったから。

ここも差別などではなく誤解を恐れずに言えば彼らの生い立ちに続く教育を受けられなかった貧困に繋がる話なのだろう。

途中から疑問に持ち始めたのはメリビットや自分の幸福のために退団したタカキぐらいで、後に役職に就くほどの人物になっていることも踏まえてもこの軸の話は浮き彫りになってくると思う。

大きくなりすぎた組織を疑えるものはその船を降りるしかない。

組織が数百人から数千人と規模が大きくなればなるほど個人よりルールや目的に重きが行ってしまうのは真理としてある。それが国家レベルになると命の扱いまで変わり戦争も簡単に起こせるようになる。

オルガの苦悩を観ても参謀がいないまま半ば居場所を作るための目的だけが先行し、それまでの仲間の死を踏まえた機会損失だけを嫌がって泥沼化してもがいている様子が見える。

彼らはオルガの行く末を疑えるはずもなく、ナゼを喪って最後は孤独だった。

指名手配犯になってからの退場劇は確かにアレだったが、想像力を膨らました上で変装や防弾チョッキもアドバイスできず丸裸でやられてしまうのが鉄華団のワンマンと少年兵の限界と末期を象徴していたのだとしたら正当性はあるシーンだったとも思えなくもない。


主人公としては乏しかったサイコ三日月の成長


オルガの唯一の相棒でもあったのに主人公としては2期を通してあまり変わらず戦うこと以外考えることがないまま終わったのは残念だった。

1期ではクーデリアから読み書きを教わり今後人間として豊かさをもつような成長をしていきそうな伏線はあったものの、

2期ではそんな気配や描写はなくなり近くにいたアトラにも終盤で自分は戦場にいることが全てと言ってしまう。

哀しく見れば半身不随となって火星の畑を手伝う目的も失われたと言えばそうだが、ずっとサイコなまま素性や生い立ちがイマイチ見えない三日月くんには失ってから豊かさが芽生えることもなかった。

オルガと三日月の関係性も互いの役割と目的だけを遂行していくバディ感は最初は良かったが、オルガの行く末を踏まえてみると三日月の無責任さもその後見えて違和感が残る。

この辺も二人の関係性の成り立ちをもう少し見せるべきで結局スカスカに思えた。

オルガを喪った三日月がリーダーについても微妙で即死したのもここまでの関係性を見れば当然の展開なのだろう。


2期からグダグダに終わったギャラルホルン勢


1期は敵役の体制側として完璧だったのに、2期でキャラクターが渋滞する。

1期で死んだはずのガエリオは掟破りの蘇生が施され、逆に裏でずっと手をまわしていたマクギリスはどこかに消えてなぜか無能になって帰ってくる。

ガエリオの復讐とマクギリスのよく見えないビジョンによるオルガとの共闘が重なって話がゴチャゴチャしていき、大事な主要キャラに話が向かないまま最終回に向けて雲行きが怪しくなる大きな要因だった。

結局マクギリスが負けてガエリオが大人になって終わるのも萎える。

SEEDのムウで味を占めたのか分からないがパンドラの箱を開けて話の正当性をもたらせることもなく、得をしているように見える作品は見たことがない。


また2期から登場し作品の全ての勝者となっていくラスタルエリオン。


政略政治の話も丁寧かつ面白く描いていたのにテイワズが退場してから、彼の独壇場に。

テイワズの内部抗争による駆け引きも面白く作られていたが、彼の登場で最終的には権力による法まで犯してなんでもありになるのは理解はできるが冷めた。

最終回で「爪楊枝」ことダインスレイヴで星の頭上から戦場にミサイル打つのは笑えたがやりすぎだった。

1期から丁寧に踏んできたギャラルホルンの伏線も斜めの方向から全部ひっくり返され、黒幕にもならない体制の権力だけで鉄華団は全滅する身も蓋もない終わりに。

結局火星支部のクーデリアと協定が結ばれ平和的な最後で幕を閉じる。

鉄華団の全滅という終わりだけで見ればそうならざる得なかった彼らの背景と組織力という見方で理解はできるが、ギャラルホルンはあまりに筋がなかった。


別ルートの作品が望まれた結果ウルズハント編がゲームで作られアニメ化までするらしい。

BORUTOみたいなもので全く同じ舞台の話を別キャラで作られても気が乗る人は少ないだろう。一度完結を迎えた終わりに別物で修復できない。

個人的には肯定もできる視点もあったがガンダムとして正解とは言いいがたい2期だった。



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