「分からない」が面白いと評されていた90年代カルト人気ドラマ【ツインピークス】を観てみた。
クーパーのパートだけ見ておけばいいシーズン1
ローラーパーマの遺体が発見され、彼女の死によってツインピークスの住人らそれぞれに影響を受けていく群像劇がシーズン1の主な役割だった。
正直登場人物と個人のストーリーが多すぎて序章をこえてから終盤までで既に理解するのもキツかった。そしてほとんどのエピソードは本筋から逸れる不倫と浮気ばかりで途中で飽きる。
シーズン2まで共通して言えるが、個人的にクーパーのパートだけを追っていれば本筋的には問題ないと思える。シーズン1は特にそれぐらいあまり関係ない話ばかりで逆に全部見てると複雑になりすぎることばかりだった。
そもそもツインピークスは事件の本筋とは他に街に暮らす現実世界と異空間が存在し、捜査官クーパーを中心に時間軸が交錯していくSFやオカルト要素も混在する。
第3章では初めて異空間である赤い部屋が登場し、物語の中では「ブラックロッジ」と呼ばれたり、「待合室」とも呼ばれている。
その中には小人がいたり、クーパーの予知夢として時々出てくる巨人や死んだはずだったローラーパーマも住人として登場してくる。
この辺りからクーパーを中心とした捜査官はローラパーマ事件と並行してブラックロッジを探る話が基本線として展開されていく。
現世とブラックロッジに最初に通ずる人間だったクーパーは住人らの言葉も手掛かりに捜査を進めていこうとしていくだけだったのがシーズン1の主な動き。
序章の事件後から最終話まで全く捜査が動かないため本筋的には超ローテンポで進んでいく。
最終話でようやく容疑者をあぶりだし突き止めていくところまで行くが全くの誤認で、クーパーは何らかの人物に銃で撃たれてシーズン1は終わる。
容疑者も最終話で急に現れ赤い部屋の関係に通じるドッペルゲンガーのような様相には見せてはいるが、結局投げやりなまま退場。8話まで見せられて動いたのは一話分ぐらいで全てが謎なままだった。
極端な話序章と最終話だけ見れば事足りる。逆にこのシーズンで微妙だった人は見なくてもいいかもしれない。
事件以降はツインピークスに住む人物の男女関係と世界観の概要を示しただけの嘘みたいなサスペンスドラマシーズンに終わった。
事件解決から蛇足化したシーズン2
ようやくローラパーマ事件の縦軸が動くシーズン2だが、1話から赤い部屋に通ずる異空間の存在とシーズン1から多岐にわたる人物エピソードの継続による横軸も交錯しまくるので混乱する。
この辺りからすべてを見ても分からないということが評判のドラマだったと理解してくるが、個人的にはそもそも分からせることに関して不親切すぎるだけに感じた。
わからないというよりつまらない横槍の話が邪魔して掴みどころを見失う。
事件の縦軸の話に絞って観ればかなりシンプルな結末で悪くなかっただけに、現代のような演出パターンの引き出しに慣れすぎている自分としては残念さの方を感じる。
事件に関しては犯人を追うクーパーに加えて、不審死に至ったローラの過去も詮索するオードリーにも軸が向いたのは大きいだろう。
ローラという被害者の人間像を完全にブラックボックス化させていたことで、実は蓋を開けるほど売春とドラッグの世界に溺れていたということをオードリーの人物を通して体現させる演出は良かった。
ちょっと前では桐島など事の主役を隠して周りが変わっていく見せ方は邦画でも流行っていたが時代を考えるとある種先取りした見せ方だったのかもしれない。物語中には最終話まで一切姿を見せない謎だらけのローラが回を追うごとに邪悪さを増していく。
事件はブラックロッジから悪の化身として来たボブがローラの父親の少年時代に乗り移っていたことが明らかになり解決された。地球上の人間に乗り移り人々に多くの悲しみを与え、ブラックロッジの栄養にさせるのが目的だったらしい。
彼は人間以外にもフクロウに移って移動しており、「フクロウはフクロウではない」というクーパーがみた予知夢の伏線もここに繋がる。
事件の主軸に関しては見えないものの力と不気味さが感性として信じられていた時代がサスペンスとして成立できる強さも見える話だった。日本でもカルト的にヒットしたらしいのは確かに伺える。
ボブの登場と事件によって現世は歪み、横軸で展開するツインピークスの住人の時間軸も変わっていたらしいのも全体をみて分かってくるが、事件後本格的に追っていくブラックロッジに関しては一向に面白くなかった。
そもそもどこでどうしてそうなったのかメリハリが一向にないため謎に謎を重ねるだけである。
ローラ事件は中盤で解決するがここで終わっていればまだ「見えない力」が街全体を幻惑する不気味な話として綺麗だった。これ以降は邪魔だった横軸のドラマが展開されるだけで正直惰性でも観れるだけ良い方だろう。
ちなみにブラックロッジに関する話は
・赤い部屋はブラックロッジの待合室。ゆわば中間地点的な場所。
・ブラックロッジは邪悪な精霊があつまるような場所
・対照的に「ホワイトロッジ」という空間も存在。善をつかさどる精霊の場所?
・ブラックロッジはツインピークスの森の中にあり、限られたものだけがその異空間に影響を受けている。
細かい解釈は人それぞれ異なるだろうが大雑把に見えたのはこんな話だった。
この辺からスピリチュアル要素だけちりばめられて繋がらない挙句、頼みのクーパーも横軸のメロドラマ調で展開する形になってくる。
調べたらこの辺から監督が代わって何もわかっていない他人が終わりに向かわせた結果がそうなったらしい。シンプルに打ちきられたのだろう。
最終話では赤い部屋が登場しクーパーはボブのドッペルゲンガーとして再び現世に降り立ち、それまでの分からなさは結局25年後にすべて後回しにされて終わる。
個人的にブラックロッジは自分の影の部分と向き合う精神世界だったと思う方がしっくりくる。そこと対峙して乗り越えた悟り世界がホワイトロッジなのだろう。
よそ者だったクーパーも結局最後はツインピークスの狭い裏切りの街に染まって、半端者として恋人と引き換えに魂を奪われただけの話だったように思う。
続編は赤い部屋に25年閉じ込められたクーパーの話になっているらしいが、ツインピークスの設定も消えて結局よくわからないらしいのでもういいかな。
今はすっかり如何に早く分かりやすいものを見せるかに傾倒した世界だが、その真逆の価値観で評価されてた時代を久しぶりに垣間見る作品だった。