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#32 短編ホラー小説「愛着障害」

ある少年が家族を皆殺しにした。
少年の年齢は6歳。
犯行は深夜2時過ぎに行われた。
父親は酒に酔ってリビングで熟睡中、後ろから少年に包丁で頸動脈を切られ失血死。
3歳年下の妹は母親と床の間で寝ている所、喉を包丁で一突きされ、そのまま死亡。
6歳年下の弟はベビーベッドから引きずり出され、廊下で床に叩きつけられたのが主な死因ではあるが、その後も何度も何度も叩きつけられ、内蔵破裂と複雑骨折を数十か所に負っていた。

母親、抵抗の痕跡あり。
手のひらや腕、脚や体に切り傷あり。
おそらく主犯の長男と争った模様。
しかし後に多量の出血によるショックによる体力の消耗により、死亡。

発見時の状態。
幼稚園の教員が連絡無く休んでいた家族を心配し、当日の夕方頃、少年宅を訪問。
玄関からの異臭を感じ、リビングへ向かうと父親と思しき男性の遺体を発見、続けて廊下で弟、床の間で妹の遺体を発見。
床や布団は血に塗れ、惨憺たる有り様だったという。
主犯の少年、及び母親は仏間で発見。
母親は既に事切れていたことは一目瞭然だった。
その遺体となった母親が抱える様に、少年は居た。
少年は母親の上半身の衣類を剥ぎ、母親の乳をしゃぶっていたという。

少年の精神鑑定。
仮称少年K、年齢6歳、両親と三兄弟の5人家族の長男。
情緒不安定で常に泣いている為、判別は難航。
後日改めて事件の詳細の聞き取り及び、精神鑑定。

少年Kの供述。
「(家族を殺す事は)前から考えていた、でも夜が怖くて無理だった。
でも、お母さんが帰ってくるのが遅くて、もうどこにも行ってほしくなくて、そうお願いしたら、怒られた。だから(夜が)怖いのを我慢して夜になったら台所の包丁を取ってみんな殺した」

少年の精神鑑定の結果。
情緒の不安定さを確認されるも、ほかは特に異常は無し。
しかし、精神的な異常は無いものの、小児性の鬱症状あり。治療の必要性あり。
(治療の方針については別紙参照)

少年の養育環境。
父親は工場勤務、もの静かで淡々と真面目に仕事を行う反面、家では酒に酔って家庭内暴力を振るう傾向あり。
近隣の住民も時折、父親の怒声を聞いたことがあるという。
また夫婦仲もあまり良くなく、度々ケンカの声も響いていた。
妹は長男が3歳の時に生まれ、それと同時に両親の長男への愛情は薄れたのか、妹が生まれて以降、長男の写真より妹の写真が極端に増えていた。
また、長男は供述で「お兄ちゃんだから我慢しなさいって沢山言われた」と言い、妹も弟も嫌いだった模様。
弟が生まれたのは長男が6歳の時。
弟の享年は僅か生後11ヶ月。
母親は弟を溺愛していたようで、弟の話になると長男は言葉に悪意を滲ませていた。
母親、近隣の住民からは孤立気味で、余りどういった人物なのかは知られていなかった。
が、某新興宗教の会員で、しょっちゅう家を留守にしていたりと活動は熱心であり、同じ宗教会員からの評判は悪くはなかったらしい。
しかし、その反面で近隣の住人や長男の通う幼稚園の他の母親からは宗教への勧誘が酷く、一部の人間からは疎まれていたのも事実である。

犯行の動機。
主犯の少年K曰く、某宗教に傾倒していた母親を長男は宗教に母親を盗られたと思い、その宗教が刊行している雑誌に載っている教祖の顔を、黒いクレヨンで塗りつぶした時、それを見た母親が激昂、「雑誌に謝れ」「お前をそんな子に育てた覚えは無い」「そんな子はウチにはいらない」等と罵倒されたと少年は供述。
それがおよそ1〜3ヶ月前の話らしい。

ここからは推測になるが、この期間を経て少年の悲しみは増大し、いつしか悲しみは憎しみに変わり、本来なら殺すべき対象であった、母親だけに飽き足らず、家庭内暴力を働く父親、自分から母親を奪いかねない妹弟、そして母親と。
家族全員の殺害という凶行に至ったのだと思われる。

その後。
少年Kには保護観察の為に施設への入所と小児鬱の治療が行われる事になった。
もともと少年は酒に酔っていない時の父親に似ていたのか、齢6歳にしては真面目だった、

不気味なほどに。

そうして小学校に上がり、
学校生活にも馴染んできたころ、少年は小学校の屋上から飛び降り、自殺。
遺書らしきものも無く、イジメにあっていた様子も、なにか思い悩む様子もなく。
突如として、家族を惨殺した当時6歳の子供は自ら命を絶った。

まるで母親に会いに行くように。


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