#21 短編空想怪談「公園にて」
私の自宅の近所にはそれなりに大きい公園がある。
ブランコや滑り台はもちろん、砂場にジャングルジム、そして広場はちょっとしたグラウンドくらいの広さは有してると思う。
そんな広さもあり、常に子連れのお母さんが多く、人で賑わっていた。
ある日曜日、なんとなく自宅の窓からその公園を眺めていると、長時間砂場で遊んでいる子供の姿が気になった。
友達と他へ行くでもなく、ただひたすら砂場に居る。
他の子供も砂場に行ったり来たりしてるのだけど、ずっと砂場で遊んでいるその子供は他の子供たちと接点を持とうとしなさそうに見える。
その時、妙な違和感を感じたが、まだその正体は掴めずに居た。
その日は自分の用事もあり、公園を眺めるのを止め、そこからまた数週間がたった頃、またなんとなく公園に目をやると、やはりあの時の子供が居る。
賑やかな公園で、ただ一人ポツンと砂場で遊ぶ子供。
パッと見は4〜5歳くらい。
11時〜12時くらいには既に公園で遊んでいる。
毎日なのか、たまたま私が公園を見る時間と重なってるのか、でも目を向けると必ずその子供はいる。
いつも同じ様な服装で、親も見えない。
そう同じ服装で親の姿が見当たらない。
これが違和感の正体か…
これに気づいてから親を探してみる事にした。
公園を眺めながら、目で子供と親を紐づけして、なんとなくどの子がどの母親、父親の下に戻るのか、もしくは親が子供に寄るのか観察していると、その砂場の子供には、公園での親が居ないのが分かった。
常に一人で遊びに来ていた様なのだ。
「あんな小さい子供一人で大丈夫なんだろうか」とも思ったが、やはり妙な違和感は拭えず結局その日はそれで観察を止めた。
その日は仕事が遅くまでかかり、帰る時間は日を跨ぐかどうかの時間で23時過ぎくらいにやっと自宅最寄りの駅に着いた所だった。
「今日の仕事も辛かった」など仕事の不満を思いながら件の公園を横切ろうとしたら、目の端に人がいる事に気が付いた。
女性だ。
年の頃は40〜50歳程。その女性はベンチに座りただ、砂場を眺めていた。
暗がりで表情は分からなかったが、どこか寂しげに見えた。
とはいえ、こんな遅い時間に女性が一人、しかもあの奇妙な子供のいる砂場を眺めている。
どちらもこの世の者では無い気がして関わる気にはなれなかった。
帰宅して食事や風呂に入り時間は午前2時過ぎ。
流石にもう居ないだろうと自宅の窓から公園を覗くとあの女性がまだ居た。
背筋に寒気を覚え、直ぐに眠る事にして、もう子供の事も女性の事も考えない様にした。
明くる日、やはり公園の賑やかさは変わらず、女性もおらず、朝はジョギングをしてる人や犬の散歩をしてる人で、賑わっていた。
あの子供と女性は何なのか、気にしない様に努めてはいるものの、一度湧き上がった違和感はそう簡単には拭い切ることは出来なかった。
・・・・・・・・
その公園は現代には珍しく掲示場があった。内容としてはよく見かけるものだと地域の催しもの、空手やダンス教室など習い事の張り紙がしてある。
普段は気にも止めなかったその掲示場に一枚の張り紙が貼られていた。
行方不明者の張り紙だ。
探されているのはあの子供。
直ぐにあの砂場の子供だ!と気付いて、警察の連絡先も書いてあったが、いち早く知らせたい正義感が顔を覗かせたのか、張り紙に一緒に書いてあったケータイに連絡をした。
出たのは女性の声。
その日は仕事だったので、次回会う打ち合わせだけして、後日警察官立会の下、現場での事情聴取となった。
数日後、その公園に現れたのは警察官数名と、あの深夜、ベンチに座っていた女性だった。
「この人の子供だったのか…」と、女性がこの世の人間であることに安心感を覚えつつ、子供を砂場で見かけた事、それが約一ヶ月前で、今でもたまに見かけること、自分が分かることは全て話した。
すると警察官と女性は怪訝な顔をしていた。
女性は言った
「確かに張り紙の写真は4〜5歳の子供なんですが、もうこれ10年前の写真なんです。
だから、もし居たとすれば14〜5歳の姿だと思うんですが…」
聞けば行方不明になったのは10年前、一度は死亡判定され捜査は打ち切りになったが、諦めきれなかった女性は、個人で捜索、そして今回始めての情報提供という事で、警察と共に藁にも縋る思いで、今回やってきたという。
結局、私の提供した情報は有力ではなかったどころか、この女性にぬか喜びさせただけで終わった。
それからその女性とは、個人的に繋がりができて、色々話しを聞くと、10年前この親子がこの公園で遊んでいた所、一瞬目を離したスキに子供が居なくなっていたことや、最後に見たのはあの砂場だった事等を話してくれた。
やはりますますあの時、公園で見かけた子供と特徴が一致していく。
服装や髪型、年の頃、聞けば聞くほど砂場の子供だと思われて仕方ない。
「今でもあの砂場に子供は見ますか?」と聞かれ私は「はい、たまに。」と答える。
数年後、私はその公園の見える部屋から引っ越す事にした。
後にその部屋にはその女性が旦那さんと移り住んだ。
「あの子の事はもう諦めました。たぶんもう二度と帰っては来ないでしょう。」
と女性は言っているが、その行動に私は未練を感じていた。
未だ子供の遺体すら見つからず行方不明。
今その女性は、あの部屋の窓から公園の砂場をただ眺めている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?