Ω1 短編SFスリラー 「 a i 」
世界は荒廃しきっていた。
度重なる核戦争、疫病の蔓延、微生物の突然変異。
第十次世界大戦下、もはや地球には生物は人間と幾数種の植物と微生物しか居なかった。
その最中、放射能の影響か、またはこの戦争に勝つために研究されたのか、人を即時的に殺すウィルスが流行。
名前をつける暇すら無く、ただでさえ核戦争で数が減った人類はさらにその72%を失い、残ったのは各国の政治家数人と、数百名の科学者だけだった。
国民も、住む土地も失い、ようやく争いの無意味さに人類は気づいた。
しかし、それに気づくのは遅すぎた。
人を殺すウィルスが世界を覆いつくした頃、金属を代謝する微生物が発見された。
各国の首脳達は自分の国にこれまでに蓄え、いずれ世界の復興をするために残した金を確認したが全ては遅かった。
金銀銅、全て無価値な微生物の糞と化していたのだ。
経済的にも、種の存続的にも、人類は窮地に立たされていることは明白だった。
そして考える力を失った政治家達は科学者の達にある命令を出していた。
「人類を救うAIを製造せよ。」
本格的な核戦争始まる前からこの計画は存在はしていたが、ここに来て遂に始動をし始めた。
科学者達も必死だった、核の炎を逃れた旧時代の研究データ、これまでの民族の歴史、救済に必要になりそうな知識を絞り尽くして、絶滅しかけた人類を救おうと、あらゆる技術と知識を使い人類救済のAIを作り出そうとした。
計画が始まり、何十年過ぎただろうか。
経済という概念は忘れ去られ、嘗て国民と呼ばれた民は生き残るために殺して奪い、殺して奪いを繰り返していた。
その殺戮を止める手段を政治家も科学者も持ち合わせてはいなかった。
世界人類の人口が10%を切った頃、約50年ぶりに国連会議が開かれた。
いや、もはやそれは国連と呼ぶにはあまりにも小規模で石器時代の集会と呼ぶ方が相応しかった。
とはいえ、その会議は残ったデジタル技術をなんとか復活させ、世界同時中継された。
アメリカ、ロシア、中国、イギリス、スペイン。
嘗ての旧時代、世界を牛耳った国の首脳達が集まり五国会議と称して集まった。
その理由は、完成したのだ。
人類最後の希望、人類最後の救済。
科学者たちは遂に人類を救うという一点のために、歴史上最高のAIを作り出したのだ。
起動。
科学者の一人がAIに訊ねた。
「私が誰か分かるか?」
「私を作った人類の一人。」
流暢な言葉でAIは答えた。
会議室は沸き立った。
これで復興できる。人類はまた繁栄できる。
次はこんな過ちは侵さない、次こそ手を取り合い、明るい未来を作る。
その会議室に居た誰しもがそう思っていた。
科学者は訊ねた。
「今人類は絶滅寸前だ、この窮地を脱出する方法を教えてくれ。」
AIは一瞬の内に答えを流暢に話しだした。
「アメリカ、17基。ロシア、20基。中国、19基。イギリス、21基。スペイン12基。各国が保有する核を世界各地の民間地域に発射。及び以下座標に波状発射。」
座標の位置はこの会議室。
場は凍りついた。
なぜ人類救済に核発射が必要なのか問うと、「現状の地球の状態は生物の生存に適していない為、宇宙に脱出するのが最適解ではあるが、今から方舟を作るには時間が足りない。
現実的に救済を考えるのであればこれまでの宗教の考えに則り死後の世界を目指す方が現実的であると考える。」
政治家の一人が聞いた。
「方舟を作るとして、推定でどれくらいの時間を要するのか?」
「およそ87年の時間が必要だが、その前に突然変異した金属を代謝する微生物が方舟の材料を食い尽くす方が計算上では早い。」
世界同時中継の会議は突如中断された。
モニターの前に居た人々はパニックを起こしていたに違いない。
会議室は重い沈黙に包まれていた。
一人の政治家が口を開いた。
なぜ核を保有してるのか。
誰も答えなかった。
誰しも復興後、また自国の利権を主張しようとしていたのだから。
答えは出た。
人類は他民族と手を取り合う事などできない。
AIは即時処分、科学者達はデータを全て捨てた。
人類は抗う事を止め、ゆっくりと死に向かい始めた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?