#12 短編空想怪談「ひとりでできるもん」
僕らは結婚してもう3年程経つ夫婦だ。
これまでも生活は順調に続き、特にこれと言った夫婦間の問題も無い。
あるとすれば一つ、妻に子供が出来ない事。
元々二人で話し、そろそろ結婚して子供がほしいとの思いから、僕の方から結婚を申し込み、彼女も快く同意。
すぐにはできないとは思っていたけど、3年も経ってできないと心配になり、何度か妻にも検査をしてもらうも、異常は見られない。
最近になって僕の方にも問題があるのかと、僕も検査をしたが、結局問題は無かった。
妻はよく「ごめんなさい」とよく言っていた。
では何が問題なのか、それが分かったのはもう少し後の事だ。
結婚生活も4年目を迎え、その日は妻には秘密で有給を取り、午前は仕事に行くフリをしてプレゼントを買い、昼過ぎには帰宅する予定を立てていた。
予定通りの時間、昼過ぎには帰宅。
しかし鍵は閉まっていて、家には誰も居ない。
仕方ないので妻を待つことにして、リビングで寛ごうとした時だ、トイレの方から何者かの激しい嘔吐の声が響いた。
その声は明らかに妻のもので、何かあったのかと直ぐにトイレに向かうと、扉の隙間から血が流れ出ている。
ただ事ではないと思い、すぐ扉を開けるよう妻に促すが、返事がない。
トイレの扉はコインで外側から開けられるタイプだったので、コインで解錠すると、血と吐瀉物に塗れた妻が居た。
白目を剥き泡も吹いていたため、呼び起こすより先に救急車を呼んだ。
程なく救急車が到着して、妻を病院へ運び診察を受けた。
原因は腹部への強打。
さらに先生から「それと、お腹の赤ちゃんは残念ですが…」と告げられた。
残念もなにも、初耳だったので僕は放心してしまった、妊娠していた事さえ知らなかったのだから。
妻は自分が妊娠していたのは知っていたんだろうか?
知っていたなら何が起こったのか?
なぜ腹部を強打したのか?
疑問は尽きなかった。
その夜、妻は病院のベッドで目を覚ました。
何があったのか妻に聞くと、開口一番冷たく答えた。
「私は子供なんて要らなかった。」
と言われ、さらに
「でもあなたの事は好き。
もし私が子供を産んで、あなたの愛情が子供に行くと想像したら自分の子供が許せなくなった。なら産まれる前に殺せば良い。」
そう妻は答えた。
その後も妻は滔々と語った。
実は結婚一年目で妊娠していた事、
妊娠する度に自分で自分のお腹を強打していた事、
その度に気絶しかけていた事、
一人で処理出来ない時はハードなSM風俗でM嬢として働き、そこのお客に殴らせていた事もあったという。
妻にとっては全て、私達の幸せな結婚生活を守る為、あなたに愛してもらう為。
そして最後に笑顔で
「産まれる前に死んだんだから、居なかったのと同じでしょ?」
と言い放った。
僕は何も答えられなかった。
それと同時に、
この価値観は受け入れられない。
という妻への否定の念と、
この笑顔が好きで僕は結婚したんだ。
相容れない感情を抱えたまま次の日の昼に退院。
離婚も考えたが、実行には移せなかった。
その一件以降、妻は正直に妊娠をしたら報告をしてくれるようになった。
そしてその腹を、今では僕が殴っている。
妻が嘔吐しても、嗚咽を漏らしても、僕は妻のお腹を殴る。
そして妻は涙を流しながら笑顔で
「ありがとう」という。
そして今
僕は、妻を殴る事が快感になっている。
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