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上司に捧ぐ!リスクヘッジと利益追求の成れの果て

 この投稿は私の職場の上司に向けて捧げる投稿です。割と志を同じくして働けてる上司だ。この文章で触れる住宅業界とは全く違う仕事をしているが、この文章の意味する事は、まさに今日上司と話した内容に対する暗喩でありアンサーとなっている。そんな私的な投稿であるが、無関係な読者の方にも興味を持って読んで貰えたら嬉しい。

 いきなり戸建て住宅の話に変わる。松尾建築設計事務所の「松尾 和也さん」は近年急速に脚光を浴びてきた温熱環境、住宅の快適さを大きく左右する断熱と気密に関する業界の第一人者のひとりだ。

 かいつまんでお話すると冬暖かくて、夏涼しい家を作るためには、熱を通しにくい外壁と、建物にすき間が少なくて空気が漏れないような構造。この2つが揃うとビックリするぐらい家は冬暖かく、夏涼しくなる。細かくはもっと色んな要素があるのだが、テーマと関係ないので、快適な家に必要な断熱と気密の話はこのぐらいにする。

 松尾先生(私も先生と同じ大学は建築学科出身なので尊敬を込めて先生とお呼びします)は当時としては珍しい温熱環境が学べる大学で勉強された。旧来の日本建築の流れとその当時の主流は、有名な建築家によるオシャレなデザインや間取りの設計が脚光を浴びていた時代で、あとは構造系などが次いで主流。本当はものすごく大事だった断熱と気密は大学で教えていなかった。

 と言うのも日本建築は湿気の多い日本の気候で木造建築を腐らせない為に「通気性」がとても重視されてきた歴史がある。このため「通気性」は木造住宅にとって一種の金科玉条になっていたのだ。

 このため、日本の木造住宅業界は以後も「通気性」という教義を妄信する巨大宗教のような様相を呈して行った。平たく言えばすき間だらけの家を「通気性」というもっともらしい売り文句で作り続けていったのだ。

古き良き時代はこれでもよかったが・・・

 しかし技術の進歩によって「通気性」に頼らなくても湿気による木の腐敗をさせない技術が出来てきた。機械換気だ。また気候も大きく変化してきた。かつての日本の夏はクーラーがない家も多くあって、それでも窓を開けて風通しを良くしたり、扇風機でしのげた。しかし40℃近い高温が当たり前のようになってきた今の日本では「通気性」や「窓を開ける」のはむしろNG行為となり、少しでも暑い外気を侵入させない密閉された構造物が必要になってきた。寒さも同様で、すきま風を取り込むような家屋は暖房がなかなか効果を発揮しない。

 このようにして気候の変化によってかつての正義であった「通気性」言い替えれば「家のすき間」はあって良いものから、あってはいけないとなってしまった。

 松尾先生はこの暑い住宅を「エアコンの効かない車を販売してるようなもの」とご自身のHPで評していたし、寒い住宅に関しては「真冬に素っ裸にホッカイロを肌に貼って温まろうとする人」と同じだと例えていた。

 戸建て住宅は安いものでも何千万円の買い物だ。そんな一生の中で一番高級な買い物をして買ったのに、真夏の2Fの西側の部屋が暑くて居られないなんていう事があってもいいのだろうか?冬のリビングでホットカーペットにコタツを点けて、ストーブまで点けないと暖かく過ごせない様なことがあってもいいのだろうか?

 かつては木造住宅はそんなものとして、誰もが諦め半分、受け入れていたのだ。松尾先生は実家が設計事務所だったのでお父様の設計の新築に住んだのだそうだ。ピカピカになって豪華な住設とオシャレな住まいに当時喜んだそうだが、生活していくと前の家よりも、夏暑いし、冬はものすごく寒いと感じたのだそうだ。

 まさに松尾先生は実体験で、当時最新の住宅がなぜこんなに暮らしづらいのかの疑問に答えを求めて住宅の温熱環境という当時、デザイナーズ住宅全盛期の時代に断熱と気密を研究して答えを探し出された。

 もうひとつお伝えしたいのが構造に関して日本の木造家屋は目覚ましい進歩を遂げていった。松尾先生は断熱・気密に関しては大手のハウスメーカーに関してもかつてはひどい状況だったと言われます。しかし構造の耐震などの強度面では、研究を重ねてすばらしい技術が確立されているそうです。(松尾先生は父親の設計事務所を継ぐ前に、大手のハウスメーカーにも、個人の設計事務などにも就職されて実情を中から見てきたそうです。)

 さてようやく本題に近づいてきました。戸建て住宅に興味のない人はもう読むのを辞めてしまったかもしれませんね。(文章が上長ですみません。)

 「断熱・気密」と「構造・耐震」この2つに対する日本の住宅業界の力の入れ具合。逆に言うと手の抜き具合に、今回のテーマ「リスクヘッジ」と「利益追求」が結びついてきます。

 営利企業は当然のように「リスクヘッジ」を行って損失を最小限にしようとします。製造業が安全衛生に注力するのも損失を最小限にするため。「利益追求」のためですよね。「利益になるモノには注力」しかし「利益に結び付かないモノは極力削減」というのが資本主義で駆動するほとんどの企業のシンプルかつ唯一の哲学だと思うのです。

儲かったその先には何が・・・

 だからこの哲学によって貫かれた住宅業界も例にもれずに、手を抜くと高額の訴訟になるかもしれない「構造・耐震」には研究費を投入して日進月歩で世界トップレベルの技術を磨いてきました。一方で「通気性」神話を言い訳にして、多少の暑いや寒いは、他の全ての商品でありがちな「これが仕様です。」や「どの家もこんなものですよ。」などで済まされてきた。

 法律もこれを後押ししてきた。構造や強度に関しては法規制は強化されてきた。2005年に発覚した「姉歯建築士による耐震偽装問題」を受けて構造の手抜きが発覚。法律は直ちに改正されて「構造に手を抜くとヤバい」というインセンティブが業界に働くようになり、住宅業界で構造・強度の手抜きは影を潜めていった。

 一方で断熱・気密に関しても実態は明らかになりつつあったが、この法規制を強めてしまうと、ほとんどのハウスメーカーから中小の工務店に至るまで法規制違反の住宅になってしまうという意味で業界からの反発に忖度する形で、世界的に見て信じられないくらい緩い規制しか行われなかった。これが近年の断熱・気密ブームまで続いた世界的には信じられないくらい住みにくい住宅が量産されてきた背景だ。メーカーは緩い規制ギリギリの住宅を建てる事で、壊れなくて頑丈だけど寒くて暑い不健康になる住宅を世に送り出してきた。(WHOは無暖房の状態で室温が18℃を下回ると呼吸器系等に健康被害がでるリスクが高まると定めています。日本の暖房していない古い家の部屋・廊下は平気で10℃を下回ります。)

 企業は「リスクヘッジ」には一生懸命になる。なぜなら損失を避けて「利益を追求」したいからだ。しかし顧客の本当の満足や社会的な正義は二の次にされる。これが今回、私の上司に言いたかったメッセージだ。

 私の会社でも思い当たることがあり、今日その上司と話した内容があった。いわゆる今日の投稿にあった「断熱・気密」に当たる部分を会社がないがしろにするのだ。そうかと思えば「リスクヘッジ」には注力、いや「リスクヘッジ」にしか注力しないのだ。やりきれない思いになった。

 日本の戸建て木造住宅のように住む人が快適になれない手抜きの構造と強度しか見るところのない商品を、どの面を下げて売ればいいのだろうと思ってしまった。いや解るんですよ。「堅実でいい会社じゃないか!」という意見も・・・。しかし顧客のニーズを無視した儲かるだけの商品を売って成功できる時代でもないはずなんです。皆さんはどう感じますか?

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