MSXの(黒)歴史
しばらく間が空いてしまいましたが、そろそろクラファンのMSX0も届きそうだし、その時に備えて、いろいろと思い出しておこうかと思います。MSXの説明は
MSX - ゲームの普及に一役買った世界の統一規格
にも書きました。MSXの2年後である1985年にはMSX2が、1988年にはMSX2+、1990年にはMSXturboRが発表され、順調に進化が続いているようにも見えます。しかしながら1986年にアスキーとマイクロソフトの提携が解消され、アスキーが引き継いでからは、急速に神通力は失われ、MSX2+以降はあまり多くの機種が発売されずに、当然、販売台数もかなり細いものになっていったようです。
MSX
MSX2
MSX2+
MSXturboR
MSX以前はパソコンに参入するメーカーは、それぞれ独自の設計で、大部分がマイクロソフト製のBASICを搭載してこそいましたが、あまり互換性はなく、ソフトウエアはそれぞれの機種に対応したものを用意する必要がありました。またディスプレイこそ融通が利きましたが、プリンタなどはそれぞれの機種に合わせたものを接続しないと、アルファベット以外の文字が化けたり、スクリーンコピーができないなどの制約が出ていました。
その意味で、MSXの功績は大きなものがあるのですが、MSXから撤退したメーカーは少なくとも家庭向けのパソコンからは撤退してしまったケースが多く、ビジネスパソコンやモバイル機器などに活路を求めたようです。
MSXはちょうとファミコンなどのゲーム専用機の登場と同じ時期でもあって、それまでのホームパソコンで狙っていた「ゲームも出来る」ことで普及させるという戦略が効かなくなったこともあります。パソコンのゲームは、それこそ誰でも作れるので、そのクオリティに大きなバラツキがあり、ゲーム機の製造会社がコンテンツの管理した方がユーザとしては安心できるということになり、主戦場が移ってしまったのだと思います。この結果、ゲームクリエイターは、ゲーム会社からの縛りが強くなり、もう自由にゲームを作ることはできなくなりました。結局、アングラ的なゲームだけがパソコン市場に残った感もあります。ただ優れたクリエイターは、もう表現力の限られる8ビットPCに対しての興味は薄れていて、より多彩な表現ができる16ビットパソコンの可能性を信じて、そちらを目指したような気もします。大部分の16ビットPCはビジネスパソコンであり、グラフィック機能に対する支援ハードウェアも無いものが多かったので、それまでのリアルタイム性の強いゲームではなく、RPGのようなじっくり取り組むようなものが増えていったように思います。
いずれにせよMSXと共に「ホームコンピュータ」というカテゴリはどこかに行ってしまったようです。その後はゲーム機はもちろんワープロであったり、モバイルデバイスとして家庭内で使われるコンピュータは普及していきましたが、それらは「家族で使う」というよりも「ひとりひとりが使う」もので、パソコンという名前のとおりパーソナルであることが必要だったようです。その後も何度か家族で共有するようなデバイスが試みられるのですが、どうも家族の間こそ情報の共有にはシビアなようで、そのモデル自身に無理があるようです。
さて、MSXは最初の登場から40年ということで、他の古のパソコンが復刻され人気を博していることに乗っかろうとしているのか、いろいろな動きが出てきています。
MSX40周年イベント(仮称) official website
MSX生みの親でもある西氏の言うところによると「アスキーを辞める時に退職金がわりにMSXの権利を貰った」とのことですが、彼自身の諸々もあって現在はIoTメディアラボラトリーがMSXの権利を「管理」しているようです。2005年頃には1チップMSXというFPGAによるMSXハードウェアデバイスが試作されたのですが、評判は芳しくはなく製品化には至らなかったのですが、2022年にMSX DEVCONが開催され、ここで MSX0、MSX3、MSXturboが発表され、現在進行中です。
1チップMSX
これらの規格や仕様については、まだ製品が出来ていないこともあり流動的ですが、興味のある人は西氏のツィートやまとめサイトを追ってみてください。
MSX3 発言情報
MSXDEVCON3 第1部・基調講演:西和彦
Project EGG
これらはベースにArduino系のハードウェアであるM5Stackや、linuxも動くRaspberry Piを採用しているようで、MSXに最新のテクノロジーを移植するハードルは低めなようです。考えてみればこの40年でCPUの能力は文字通り桁違いになっているので、エミュレーションであっても充分な性能が発揮できる環境が整っています。
Arduino
M5Stack
Raspberry Pi
今はpythonなんかはコンパイルしなくても動きますし、わざわざBASICを使う必要性は感じないかもしれませんが、小規模な処理をサクッと書くにはBASICはなかなか便利な処理系なので、ちょっと覚えてみるのも悪くないとは思いますよ。
はやく MSX0 が来ないかなぁ。
西 和彦 Kazuhiko Nishi
ヘッダ画像は、以下のものを加工して使いました。
https://www.amusement-center.com/project/egg/special/msx0/