ビデオデッキと回転ヘッド - ヘリカルスキャン
デバイスの話はちょっと間が空いてしまいましたが、前回は大昔のビデオレコーダについて書きました。
オープンリールなビデオレコーダ
磁気で信号を記録するには、電磁石の一種である磁気ヘッドに電気を流すことで磁場を発生し、この磁場でテープの表面に塗られた磁性体の極性を変化させ、読み取る時はこのテープの磁性体の極性を磁気ヘッドで検出し電気信号に直すというのが原理です。多くの信号を記録するにはテープを高速で動かせば良いというわけで、オーディオのオープンリールでは音質を良くしたければ早いテープ走行速度を選ぶようになっているわけです。
第29回「テープレコーダの磁気ヘッドと磁性粉」の巻
https://www.tdk.com/ja/tech-mag/ninja/029
ビデオ信号を記録するには音声と比べると、遥かに多く(高い周波数)の信号を記録する必要があります。単にテープ速度を上げるだけではあまりに高速になり機械的機構も大変ですし、磁気テープのリールもとてつもなく大きなものになってしまいます。このため磁気ヘッドも回転させることでヘッドとテープの相対速度を上げることで解決したヘリカルスキャンという方式が考えられました。
ヘリカルスキャン方式
この方式だと信号はテープ上に斜めに一周ごとに区切られた状態で記録されることになるのですが(だから連続した信号である音声には向かない)、幸いにして映像信号は同期信号という単位で分割されているので、それに合わせて区切られた信号を記録すれば良いわけです。
ビデオテープレコーダ
ヘリカルスキャン
放送用ヘリカルVTR
https://www.jstage.jst.go.jp/article/itej1954/22/1/22_1_52/_pdf/-char/ja
オーディオと比べればテープの幅はだいぶ太くなりましたが、この方式を採用することで毎秒数センチ程度のテープ速度で映像を記録することができるようになり、オープンリール型からカセット型に進化してどの家庭にもビデオデッキがあるという時代を作ることが出来たのです。実際の機構は映像信号以外に音声信号を記録するためのヘッドや、繰り返し録画するための消去ヘッドなども必要なので、なかなか複雑なものなのですが、どの方式のビデオであっても基本的には同じような作りです。
ロストテクノロジー!回転ヘッドの話
テープを早く動かすのではなくヘッドの方を動かしてしまえというのは、なかなか素晴らしい発想の転換だとは思います。思いついてしまえばどうということは無いのでしょうが、こういうのが発明らしい発明だなと思います。この後、ビデオレコーダーはオープンリールからカセットになるのですが、家庭向けの時代には有名な規格競争が繰り広げられ、持ち歩けるハンディ型に関してもいろいろな方式が作られました。今となっては磁気テープに記録することはほぼ無くなってしまい回転ヘッドを目にする機会も無くなってしまいましたが、あの複雑なメカが懐かしく思います。壊れるとちょっと素人には手出しできないのが難点だったのですけどね。
ヘッダ画像は、以下のものを使わせていただきました。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:HericalVTR-Tape-Pattern1.png
Sphl - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=107293800による